Persona3小説 02. THE TIME HAS COME 忍者ブログ

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02. THE TIME HAS COME




 
我が息子



そう呼んだ天空の声は、地上の体を指し招く。

いや...呼ばれ操られているのは僕だ。
僕がこの声に逆らえないせいで、アキラまで危険にさらそうとしている...

僕が漠然と望んだ、光ある未来ではなく
暗い不安...不安と惑いをもたらすあの声...

抗えない、絶対的な言霊――― どこかでいつか、聴いた事がある。

僕の...?

...けれどあれは幻だ。だって、僕を、見捨てた...


見捨てた? 誰が?


分からない! ...どうして、思い出せない?


どうして、このままにしておいてくれないの? 
どうして変わってしまうの? またアキラを苦しめる気なの!

どうしたらいい。どうしたら。このままではきっと、アキラだって、あぶない。

だんだん、近づいてくるのを感じる。―――苦しみの場所。
暗闇に憩ううちに、久しく記憶の底に沈んだまま浮かんでこなくなっていた...僕を拒んだ敵意の場所...あの、輪郭が。



アキラがその街に着いたとき、外界の時間が瞬時に崩れ、止まった。
“あの時間”が始まった...呼び声はますます力を得てこだまし、引きずらんばかりに強くなる。
アキラの歩みは、無感動にそれを受け止め、通り過ぎ、そして、あの場所へと―――近づいてゆく。


必死に探した。いま、僕にできることを必死に。
初めて焦燥にとり憑かれ、もがいて、自分の全てをあらんかぎりに込めて伸ばしたココロの手が、ほの暗く蒼い過去に満ちた永劫の扉を探り当てたのは、偶然ではなかった。
そこからは、アキラとは違う、僕と同じ匂いがして、...だから辿りつけたのだろう。

そして、事実は残酷に突きつけた。
薄々感じていた。 ...自分が、アキラとは異質の存在であることの、その証を。



...かまうものか。僕の揺り籠。育んでくれた大切な人。
それ以外、他に守りたいものなど、最初から僕には無いのだから。



光が洩れた蒼き扉の奥に在る沈黙―――その存在に向かって、叫んだ。



避けられない危険が迫ってる
僕には逆らえない災いの呼び声が

どんなことでも
何でもするから
“この人”を助けて!

お願いだ。
――僕の眷属たち!!





無限に続くかのような鼓動のあと、遙々遠い沈黙がゆるりと動き、高くしわがれた奇妙な声で、嘲笑うように...けれど幽かに応えてくれた。



これはこれは...
貴方は強大な力を秘めておいでのようだ
そして...
なるほど
確かに“約定”に縛られておりますな
わたくしにも遥とは見通せぬ程の大いなる秘密
興味深い...




よろしい

ならば、代償は、貴方自身の力
――

契約者には、我が扉の鍵を
貴方には、自身をペルソナの位階へと繋ぐ錠を差しあげよう

契約者が“いかなる結末”を望む者であろうと貴方は貴方の定めを負わねばならぬ、となれば...起こりうる矛盾は、いつか貴方を苦しめましょうな

しかし

この契約が結ばれし暁には、貴方が“真の望み”を口にすることは、絶対に叶いますまい

その覚悟がおありなら、
ただ――“諾”と頷けばよい

このイゴール、
出来うる限りの手助けをいたしましょう

――それで、よろしいですかな?



時空を超えて告げられたそれは、イゴールと名乗る年経た存在が持つ、契約の力だった。

こんな薄くて頼りない殻ではなく
呼び声に逆らえない僕でもなく
僕の“力”がアキラを守る可能性を約束する鍵。

たとえ仮面の一つに身を堕としても
たとえ僕の望みが叶わなくても

もし、アキラが僕を選んでくれたなら
きっと何にも傷つけさせない盾となり剣となる。

君が、自分の意思で辿りつくその日まで、
僕はただの力の無き“ココロ”の存在でしか傍に在れなくとも。

―――本望だ。

呪いにも似たその契約に、僕は希望を託してすがった。



その瞬間、意識は温かい繭から引き剥がされていった。
アキラの中に、僕の本体と、大事な思い出の数々とを残したまま。
呼び声に抗えない僕のココロだけが、この世界がかろうじて許した姿形に造られてゆく。

こんな別れ方をするなんて、一度も想像していなかった。

さようなら。―――僕の“母”だった優しい場所。




足音が確信を得て速められ、やがて水溜りを踏む音が止んだ。
きしむ音を立てて扉が開かれる。


淀みを拒む見知らぬ館に、僕は降りたっていた。
しなければならない事は、すでに僕の手の中に残されていた。
あとは、彼に受諾のサインを求めるだけ。



この契約が結ばれし暁には、
貴方が“真の望み”を口にすることは
絶対に叶いますまい――




僕はもう、逃れられない牢獄の虜囚だ。

ずっと...ずっと言いたかったあの言葉は、諦めによって口にする前に儚く消えた。




「遅かったね。 ...永い間、君を待っていたよ 」


アキラは、僕の始まりの言葉に、振り向いた。


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