Persona3小説 07. 寓話 忍者ブログ

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07. 寓話


多様な時が層を成し常人には視えず開かれぬ扉の奥。 
老人は、旧い城壁の悪魔像のごとくわだかまり、永い沈思にふけっていた。


彼が契約者の心の海――“魂”を捌くその手が、滴りを
(こご)らせた仮面をペルソナの階級へと繋ぎ、代償に応じて(かえ)す。采配(さいはい)の役目は魂の死と変化、そして再生であり、資格に至る者に扉を開き・かつ運命には干渉しない。彼は世界を俯瞰(ふかん)する隠された者だった。

老人の目の前には、展開されつつある神秘のアルカナがあった。未来を視、過去を視通す二十二葉の寓意画は、無垢なる愚者の解放より精神の旅が始まり、変化を経て宇宙において達成される。宇宙は両性具有。全てを己で産み、育み続け、終わらせ、始りへと還す。“精神”と“霊性”の二つの可能性をもつ永久機関の姿であり、完全なる死をも指す。

「・・・面白い事もあるものだ」 うっそりと呟く声が幽明の狭間にある部屋を漂った。

「どうかなさいましたか、イゴール様」 傍らに置かれた美しい人形の唇が微笑む。

老人の尖った爪先が一つの寓意を指し示した。

「これをご覧。
“戦車”と“死神”の
破局(リバース)が、“愚者”と“審判”に影響し“月”を反した。
これは“宇宙”へと至る聖者にしては何とも
恣意(しい)的な道程だ・・・。
このような運命を視たことがあるかね? エリザベス」

「ございません、一度も」 

「さもあろう」

皺高い声を低く
(おさ)め、イゴールは(わら)った。

「在り得ぬ事よ。
我が本来のアルカナには姿無きはずの“死神”。
それが描かれ、
(うつ)し世の摂理を捻じ曲げるとは・・・」

「新たな客人の予言でしょうか?」

「さぁて・・・よき趣向になればよいがね」


声が絶え時が静まり、二つの影は、いずこへ開くとも分からぬ窓から
耀(よう)と照らす魂のゆらめきに浮かぶのみとなった。

再びイゴールが口を開くのは、
彼の言う“現し世”の刻みで10年の後になる。―――







“ファルロスが残したペルソナの種、それを咲かせる”。 影時間の俺はそのただ一つの念に
()りつかれていた。

イゴールは、そのペルソナ―――“タナトス”へ至る道を「“死神”のきざはしをてっぺんまで昇りつめる事」だと語った。竜を求めるものが竜に為ってしまうように、それは危うい力の欲求へとなり得る。『深淵に己を見つめられる覚悟があるならどうぞ。』 ・・・老人はそういってニヤリと笑った。

死を
(つかさど)る力の素体を集め、条件さえ揃えば、“タナトス”の種を宿したこの身体の檻の鍵は外される。

十二のシャドウを倒しても影時間は終わらない。消えないタルタロスに、俺はむしろ感謝を捧げながら単独で狩りに奔走した。まるで自分が“刈りとる者”に変じた錯覚さえ起きるほど
数多(あまた)のシャドウを消費し、目指す段をひとつひとつ踏みしめ、それはもう手の届くところまで近づいていた。

ベルベットルームでアリスが生まれたとき、群青色の服を着た美少女は呪いを秘めた可憐な姿を俺の内に消す前に、真珠の輝きを唇からのぞかせ一言囁いた。
(あなたはわたしとおんなじね!)

それでもいい、と思いつめるまでにはなっていたかもしれない。でも、俺には俺の目的があった。
ファルロスのくれたものを手に入れる。「忘れないで 」と願った友人を、俺は信じる。
・・・それだけだ。








11月19日。京都駅 ―――


「うおおおおお! おこしやす、オレ! 舞妓さんが呼んでるーう!」

京都なんてベタだよなーとグチっていた割にはしゃぎまくってピースを突き出す順平を、写真部所属というだけでカメラマンを押し付けられた山岸がニコニコしながらデジカメで撮りまくっていた。聞けばこの日のために自費で大容量メモカとバッテリーを追加購入したとの張り切りようだ。

「ちょっとぉー順平、他の団体に笑われてるじゃん、恥ずかしいからやめてよ」
「堅いこといわねーの! 一生に一度の記念だろ! ってことでゆかりっちツーショットしようぜー」
「やっ ダレがあんたなんかと! ・・・んもー」
「わーったよ!アキラもリョージも、ほら、ハイってハイって!」
「あ、ちょっとまって下さい、メモリーカード交換しますね」
「え、ちょっ何枚撮ってんだ山岸、まだ駅に着いたばかりだろ」
「大丈夫ですよ、真田先輩! まだたっくさんありますから」
「京都か・・・久しぶりだなー」
「所変わればこうも違うんだね。綺麗だ、・・・みてあの山の色。美鶴さんには適わないけど」
「望月、貴様は相変わらずか」

クラスや学年は違っても、自然と仲間同士の気安さで集まった。
駅のバスターミナルで楽しんでいる寮生の中に、望月綾時の姿もあった。いつもつるんでいる順平が誘ったのだろう。居ても不自然ではない程度に溶け込んでいる。一人アイギスだけが油断のない眼差しをそそいでいるのを唯一の例外として。


西日が峰々の
稜線(りょうせん)
に落ちかかる頃。宿泊場所の温泉旅館についた一行は、各自に決められた部屋割りによってバラバラになった。


「・・・同じか?」

「そうみたいだね。良かった」

二階廊下に並ぶドアのひとつの前で鉢合わせた。

「俺ら何時に風呂だったっけ」
「あ、順平君が時間になったら誘いに来るってさ。
それまで北川君、夕食の前にちょっと中庭見に行かない? ここって日本庭園が有名らしいよ」

じゃあ暇だし、という意見の一致をみて、どうせだから順平も誘おうと、彼の居るはずの部屋を訪ねた。

ドアを開けると襖が開けっ放しだったので覗き込んだ。順平が「イエス!」とガッツポーズをつくり、相手が「うおおお!」と頭を抱える。

「お、アキラどしたー?」布団の上にあぐらをかき、携帯ゲームで通信対戦中の順平が顔を上げた。
「いや、いま忙しい?」 
「あー、ちっといまリーグ戦やってんのよ。ただいま俺様の華麗なるコンボが炸・裂・中・な・り! おりゃっ! とぉりゃっ! 喰らえっ!」
「・・・あ、じゃいい。やっててくれ」

引っ込んでドアを閉め、後ろでブラブラと辺りを見ている綾時を振り返った。

「なんかゲームで対戦中っぽい」
「なんだ。じゃあ僕達だけで優雅に庭園デートとシャレこみますか?」
「・・・誰か女子と行けば?」
「3F は廊下で先生が仁王立ちで見張ってたよ。早く行こう? 暗くなったら、見えないでしょ」
「仕方ないな・・・」



案内板を頼りに進んだ先で、ガラス戸を押し開けた綾時は嘆息した。

「ああ、ライトアップされてるね。いい雰囲気だ」

微かな琴の音が流れる純和風庭園は、ところどころに置かれた灯篭に灯りが点され、綺麗に剪定された木々と庭石が夕映えの下に美しく広がっていた。人の気配は旅館からのみで、見渡しても誰もいない。

「・・・どうでもいいけど、ちょっと寒い」 ブレザーの手を引っ込めて両脇に交差する。
「寒い? 」
「・・・京都って底冷えする。何か着てくれば良かった」

綾時は首に巻いたものをサッととると、
「コレも、しなよ」 と言って、こちらが押し留める前に何重にもぐるぐる巻きにしようとした。
「いらない」 どけようと手を上げたら
「いいって! 誘ったの僕だしさ。結構似合うじゃない?」 笑って前で縛ろうとするので、それはさすがにやめてもらう。

「中に戻るという選択肢は無い? そっちだって寒いんじゃ・・・」 と何気にそのままになってしまった。それほど薄くて軽いしっとりとした触り心地が温い。なるほど、首だけでもかなり違う。
「このくらいは平気だよ。 あ、風花さんにカメラ借りてくればよかったなー、残念」

(平気? ) ・・・しげしげと喉元を見てしまった。隠された傷があるわけでもないし、いつも巻いてるこれの存在理由はなんだ。寒いからじゃないなら・・・ファッション?

「なーに? 何かついてる?」 
枯山水を前にきょろきょろしていた綾時が視線に気付いてこちらをみたので、「何でもない」とそらす。他人がどう思おうと、したいカッコするのは個人の自由だな、と。

「君って、いっつも僕のことみてない? アイギスさんの次に感じるよ」 そう綾時がにやりと突いた時、正直いってドキリとした。・・・顔色が変わらない程度には。

「別に・・・ていうか、最初に見てたのはそっちだろ」 ずり落ちそうになった片方の端を押さえた。気持ちが焦っていくのを打ち消そうと、自分でも忘れていたような事を口走っている。

「えー、いつ?」
「・・・自己紹介の時 」
「ん、・・・んんん?」
綾時は顔を上げると首をかしげ、記憶を探る目つきになった。「あー、はいはい・・・」

「前に会った事が?」 様子に、やはり、と尋ねてみる。しかし、

「たしか・・・あの時はね、なんで”ソコ”にあるのかな?って驚いて・・・って、そこって君の事だけど・・・」 綾時は言葉の途中で眉をひそめた。 「・・・って? 何が、あったんだろ?」 そのまま、きょとんと固まった。

「・・・俺に訊くな」

ようやく掴みかけたと思った魚に逃げられた上、またしても迷宮の入り口を発見してしまった。 ・・・何故、答えのでない問いばかりがつき付けられるのか。このままだと全てを投げ出してしまいそうだ。

もやもやが晴れないまま、辺りを散策する。
綾時の質問(「あのコーンって鳴ってるの、何? 」とか)に、分かる事はところどころ応えながら一周しかかると、池の方から山岸の小さな姿が手を振っているのに気付いた。

「彰くーん、望月さーん」 ちょろちょろと小走りにやってくる。「ハァ・・・ハァ・・・もうすぐ、大広間で夕食みたいです。あ、それと・・・一枚いいですか?」 こちらが何を言う暇もなく、彼女はデジカメを構えた。

「もちろん 」 笑って受けた綾時が、慣れたしぐさで俺の肩に手を回した。

「彰くんったら、棒立ち」 山岸はカメラを固定しながら笑う。「じゃ、いきまーす」

一枚どころかすごい連写されてしまった。「えっと、ブレてたら困るから・・・」 別に責めてないのに言い訳している。

綾時は「全然オッケー 」と指をひらひらさせた。
「ありがとね。丁度、ここ来たときに、写真欲しいなって思ってたんだ。風花さんってエスパーみたい 」 

(みたいっていうか、本物なんだよ・・・) 心中ボソる。きっとココにもサーチして真っ直ぐ来たに違いない。

「あ、いいんです。 私も・・・頼まれたの。一石二鳥で助かりました」 山岸はちょっと紅くなって微妙な事を口にすると、「じゃ、帰ったらメールで送りますね!」 そう言ってぱたぱたと去っていった。


「・・・あのコも可愛いよねー。 ハムスターみたい」 フッと笑んで見送る横顔。

「俺はむしろ綾時の守備範囲に驚きなんだが・・・」かねがねの感想を皮肉に述べてやった。

「なーに言ってるの? 男と女が惹かれあうのは自然の法則でしょ?」そうのたまってから、「あ、いま綾時って言ったね。じゃあ・・・僕も彰って呼んじゃおっと」 ちょっと驚いた表情の後、眼を細めた。

それで気付いた。
いつの間にか“望月”が、俺の中で“綾時”に替わっていたことに。

同時に、綾時に見透かされてる筈の無い自分の執着が、勝手に衝かれて戸惑った。俺はファルロスに何を期待していたんだろう。

この恋しいという気持ちは友人に対して抱くべきものでは無いんだろうか。ああいう形で自分の一部を残し、俺の一部を持ち去った彼は、もう友達・・・ではないとしたら?

比較するものがないのでいままで意識できなかったのか、・・・あるいは意識しないようにしてきたのか。友達とは普通“どこまで思うこと”を言うんだろう。・・・






色々な事があった(露天風呂はもうたくさんだ・・・)修学旅行が終わり、また俺に日常が戻ってきた。日常、それはつまり、また授業と部活とタルタロスの日々が始まるということだが―――

旅行の翌日の土曜、やっぱりどう考えても日常とは思えない不思議な蒼い空間で、俺は、老人と向かい合っていた。横にはいつも同じ位置姿勢で
(たたず)む、猫を思わせる微笑を浮かべたエリザベス。

「ついに”タナトス”を
(つか)む力を手にされましたな」 老人はそういって揉み手をした。

「ああ、」 浮かない気分で俺は
(うなず)いた。

あんなに望んだはずのそれが、今の自分に何の意味をもたらすのか・・・
(いま)
だあやふやのままだ。

(いいか・・・)
いまは自分の気持ちより、ファルロスだ。考えても仕方の無いことは、考えない。

合図を送ると、イゴールは、凄腕の奇術師がもつような手さばきで、俺が集めたペルソナの寓意を展開し、収束し、融合させた。暗い部屋が眼を灼く光芒に包まれる。


我はタナトス・・・
汝より生まれ出で、汝の傍らに歩む者なり・・・



瞼を開けた俺を、翼に似た広がりをもつ棺の蓋、二条の鎖と黒衣を纏う死神が見下ろした。白銀色の仮面の奥に広がる虚無を見つめたが、そこには何の答えも見出せないまま、“タナトス”は
精神(こころ)に吸い込まれた。瞬間、餓えに似た息苦しさが背筋を軸に放射する。眼が...新しい心の眼が開かれていく。

「・・・ときにお客人は、『蛙の王子』あるいは『美女と野獣』という、貴方の世界のお
伽噺(とぎばなし)
をご存知ですかな? 」 
「・・・っ、・・・なんと、なく。なら・・・」

荒い息の下で答えた俺に、老人は皺だらけの頬をニッと引き伸ばした。

「おさな子に語られるそれらが、時に意味深く真実を象徴することがございますな。

・・・では、ご機嫌よう」











-claplog darkside-




これが、密室で、二人きり・・・だったらなー。

すうすう寝息たてちゃって、まぁ・・・
わかってる? 危険なヤツが、すぐ隣にいるってこと。


畳の匂いって・・・不思議だ。
これが旅館の匂い・・・ 

面白い匂いだ。色んな人間の味がする匂い。

香の空薫き・・・だっけ。
美鶴さんが言ってたの。

普段と違うことしてみたくなるのは、
そのせいかな。



僕・・・

ぼくさ一度、
・・・いちど君と、ヤってみたいと思ってるんだよね。

オカシイかな。

いや、一度なんて嘘はやめる。
なんていうか、こう。
うん・・・

さっき風呂で見た君のおへそ、すっごく可愛かったよ・・・
抱きついて、舌いれたくなっちゃった。

・・・やれば良かったかな。その場のノリで。

フフ

わからないことがあるんだ。

許されることと、許されないことの間にある境界。
それを決める者の行方を、きみを見てるといつも探したくなる。

僕はきみが怖いんだ。
だってまだ何も許されていないのに、きみこそが僕の世界で僕の全てだと感じたから。
でもきみはそれを知らない。僕もしっかりとは信じられないでいる。
そのことが今はとても恐ろしくて、・・・奇妙だけど、嬉しいって思う。

もしその目に尋ねてみたら、どうなるだろう?

きみの手、きみの髪は今でも僕のものか。
この身体で君に触れ、したいように感じてもいいのか。

僕と同じで何も知らない君が、その時に、しそうな顔・・・
・・・それを空想しているときが、僕は幸せなんだ。



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