Persona3小説 Five. 終末は巡る 忍者ブログ

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Five. 終末は巡る



...ようこそ、悩める子羊の皆様。


これからお話しいたしますのは、我ら『N.Y.X』の親愛なる兄弟姉妹のみが知る、世界の隠された真実です。

まずはこちらの生命の樹、セフィロト・ツリーをご覧ください。


カバラの叡智を凝縮したこの象徴図は、古くは“神のかたち”と呼ばれていました。

十あるセフィラをつなぐ22本の
小径(パス)には、旧約聖書を構成するヘブライ語のアルファベット全22文字が関連付けられており、タロットの大アルカナ22枚は、実にこのセフィロトのパスに由来しているのです。

そうです。大アルカナこそは、宇宙を創造した神の御言葉であり、神の国に近づくための深遠なる奥義なのです。

今宵はそのアルカナにおいて、人間が0番の愚者に至った道のりをお教えしましょう。

はじまりは月のコフです。
セフィラの7番ネツァクから10番マルクトをつなぐ路ですね。

月は、“心の奥”を意味します。

無垢なるアダムとイヴは悪魔に誑かされ、神に禁じられていた智恵の実を食べてしまいました。
コフである月が表わしているのは、禁断の実によって得たもの、すなわち精神です。

この時でした。人類が初めて父なる神に背いた瞬間は。


よろしいですね。

しっかり聞いていないと、来世で3頭身になるうえにワキの汗が焼肉のタレになってしまいますよ。

次に、審判はシン。8番ホドから10番マルクトへ。

審判は、“判決、決心”を意味します。

智恵の実によってアダムとイヴは善悪を知りました。
“自我”を得た彼らは、お互いを意識し、裸の身をイチジクの葉で覆いました。

彼我の区別が無い一つの魂として幸福であったアダムとイヴは、このときから“個人”という存在となり、分かり合えぬ“孤独な人間たち”になってしまったのです。

自ら犯した罪におののき、彼らは神を恐れて身を隠しました。

しかし天網恢々疎にして漏らさず。

神は当然、それをお見抜きになられました。
そしてアダムとイヴに、神の裁きが下されたのです。

ここに、人類の罪が確定しました。


最後の世界はタヴ。9番イェソドから10番マルクトへ。

世界は、“完全、旅立ち、死”を意味します。

アダムとイヴは神の完全な楽園より追放され、苦しみの待つ地へ旅立ちました。

こうして人類は、不死を約束する生命の樹の実を失い、悪に染まりやすい心を得て、いずれは死ぬ運命の旅人になったのです。


...これが、アルカナの愚者の旅の始まりです。


この原罪がある限り、我々人間には、今も未来も永遠に安らぎは訪れません。

智恵の実は我々に、楽園にはなかった争いや敵意を与えました。

カインがアベルを殺したのも、智恵の実によって得た悪しき心と死の存在ゆえ。死という結果があるからこそ、人は殺しの誘惑に駆られるのです。


この瞬間にも人々は争い、大地に血が流れ続けている。

我々は恐るべき科学の力を手に入れ、神が与えたもうた環境を破壊し、災害がもたらす死の悲しみと恐怖に怯え続けています。

日本を襲った大地震は、これから人類に下される審判の予兆に過ぎません。
月が満ちる今宵、皆様もお感じになったことでしょう。
確かに世紀末に向けて、何かが起こりつつあるのです。

神よ、呪われた運命を背負う、愚かな旅人達を許したまえ。


悪魔の誘惑に屈したばかりに呪われた人類を
どんなにか、神は悲しまれている事でしょう。


父なる神は、つねに正しき人々を見守っておられます。

お集まりくださった皆様には、神の御心を行なう素晴らしい資質がおありです。


先ほどのセフィロトを思い出してください。

月は人類の罪の証。死の運命は我々に下された罰なのです。


しかし、ご心配にはおよびません。

我々は何があっても皆様の味方です。
皆様の悩みや苦しみは、決してご自身のせいではないのです。

あなた、そちらのあなたもですよ...
...その不運は、あなた方のせいではありません。

間違った道を選んでしまった人々が、皆様を苦しめているのです。

我々だけだ。 ...その彼らの罪を正す事が出来るのは。


我ら々『N.Y.X』は、母なる月ニュクスを招来し、過ちの時に立ち返り、今度こそ正しい選択をするよう人々を導くよう神命を授かっている。


悪魔の智恵の実を捨て、再び争い無き楽園へ帰りましょう。

肉体の飢餓、心の飢餓に苦しむ全ての人々を、清い心で救いましょう。

もう一度、無垢なる不死の存在に還り、神の御許で永遠の愛を授かりましょう。

さあ、我々に続けて共に祈りを捧げましょう。


ニュクスよ、我らに罪を贖わせたまえ

ニュクスよ、我らより死の恐怖を去らせたまえ

ニュクスよ、我らに永遠の安らぎを与えたまえ


ニュクスよ...

大いなるニュクスよ...

大いなる我らが母...




クク...叫べ、踊れ、狂乱しろ...

孤独なる人間達よ、昏き欲望にその身を侵せ...








列島の腰骨を揺るがした大地震の日の夜、桐条の極秘プロジェクトを震撼させる事件が起こった。

厳戸台開発研究所にある『エルゴノミクス研究所』では、岳羽の指揮のもと、“黄昏の石”と名づけられた物質への様々な分析・試験が繰り返されていた。近日中に予定された実験のため、研究員たちは連日連夜の解析に忙殺されていた。
そんな中、異常事態が、ある研究員の身上にふりかかった。

その研究員は、世界中から集められた黄昏の石と成分を同定範囲まで調整されたサンプル物質の、保管庫の責任者だった。既に23時をまわった夜中、彼は今日中に完了させねばならない準備のため、各サンプルの成分表を延々とチェックしていた。

普段から物静かで無口だったこともあり、普段と比べて特に生気が無いことに気づいた者は、誰一人としていなかった。もしも注意深く見つめれば、彼の眼はまるで奥が腐乱したかのように光が消え失せ、亡霊めいた雰囲気を醸しだしているのが分ったかもしれない。

そのぽっかりと開いた虚ろな眼が、時計の上をさまよった。

もうすぐ...0時になる。

疲れきった表情が更に深刻さを増した。帰る電車が無くなる以上に、気がかりで不安な事情があった。
彼をたった一人で育て上げた母が、今朝の震災で行方不明になっていた。
実家は、最も被害の甚大な街にある。生存に望みをかけて連絡をとろうと電話を繰り返しても、無情に不通音が返ってくるのみ。

彼はすぐに空港へ向かった。そこで知ったのは、便の停止とあらゆる交通の遮断だった。

それなのに自分は、上司に休暇の申請できない。個人の事情など黙殺される状態なのだ。

遠くの県とはいえ同じ国の災害だというのに、港区では何事も止まることなく、日常の歩みは進められていた。TVや新聞をみなければ、何も気づかないかもしれないほどに。

こうしている間にも彼は、母親への裏切りを、我が身を切り裂かれるように感じ続けていた。

行ける所まで行くべきだ。歩いてでも...
しかし動くことができなかった。
周囲の人間が自分に接してくる時の、下らないものを見るような視線は、もう長いこと、彼を物言えぬ貝にしていた。

6年勤めて、初めて責任を任された。それも、壮大な計画において決定的な素材に直接関わる重要な。
同期は全員、後輩さえ彼が路傍の石であるかのように跨ぎ越し、昇進して行った。
今回の任務は彼にとって、今後の人生を決める程の正念場だった。

母親が生きているかどうかもわからない。どこかで苦しんでいるかもしれないのに。
それなのに。
研究所を包む殺気立った空気に締め上げられ、彼は首に縄でもかけられたように、何一つ言い出せなかった。

...予定通り進めなくては。自分はもう、ただ一人の理解者の母を見捨てたも同然だ。
心の痛みが胃を超え、心蔵を蝕む程になっても、そう自分に言い聞かせるしかない。

鈍い動作で棚の鍵をあけ、彼は並べられた大型の広口ボトルに保管されている石の一つを取り出した。ステンレスバットの上に置こうとしたとき、重さに耐えきれず、手から石がごとりと落ちた。突然の音に室内に数人いた他の研究者は皆、苛立ちを隠さない冷たい視線を彼に向けた。取り扱いに注意を払えと上から厳重な警告をされている素材。しかし、彼に対しての厳しく冷たい態度は多分にそのせいだけではなかった。

「ったく、またか... 気ぃつけろよ、何度も言わせるな 」

「...すみま、せん 」

咽喉までせり上がった苦しみで涙が込み上げたが、彼は眼を閉じまいとこらえた。瞬間に膨れ上がった、体内の怖ろしい激しさ。それは、自分をとりまく全てに向けた殺意だった。彼はそんな自分の声の震えを気づかれないよう、ぼそぼそと口の中で謝った。そして、下を向くと採取器具を手に取った。

剥離(はくり)性に富む石の表層は、小型の金鎚で力無く2度叩いただけで、透き通った羽根に似た薄片となって剥がれた。

銀盤の上の欠片は...
淡い濃淡を帯びた冬の夕暮れのような燐光にとりまかれていた。
表面には雲母様の綺羅がチカチカと瞬いている。

吸い寄せられる。心まで遠くに流れ往きそうな幽かさ、冷たく優しい彩りの乱舞だ。

既に知っているはずの黄昏の羽根は淀んだ目には一際美しく映え、魅了された彼はそれから眼を離すことができなかった。

その輝きは、
(くら)
さ明るさに移ろいながら、
まるで彼に微笑みかけ、誘い呼ぶように、―――


隙あらば私は忍び笑い近づく


「遅くまでお疲れさまです 」

周囲に愛想よく目礼を投げかけながら入ってきたのは幾月だった。彼は誰に話しかけようかと迷い、一番近くで肩を落としてゆらゆら立っている男の背後に近づいた。

「あのぉ、すみません。 20日の一次検査について、ちょっとお伺いしてもよろし... 」

「...ぅ...うぅ... ...うぁぁ... 」

腹の底から鳴り響く獣じみたうめき声。
後姿の背から轟く怪音に、驚いた幾月は口をつぐみ、足を止めた。

蛍光灯が明滅をはじめた。部屋中のコンソールの表示が消え―――
窓の無い地下であったそこは、突如として乾いた息苦しさに満たされていった。

喘ぐ研究員は、次第に唸りながらがたがたと震えだした。
頭を抱えた手から滑り落ちた金鎚が、床に落下し――鈍い音をたてた。

貴様の影は嘲笑う

愚鈍へ逃れし者よ 堕ちろ
拒絶に慣れた孤独よ 殺せ!
無感動な道化よ 嗤え
残酷を誘う従順さよ 壊れろ!
醜悪なる弱さよ 牙剥け
飽く無き色欲よ 犯せ!
貪欲なるけだものよ
喰らい尽くせ!!
蝕まれし不安よ 惑え 狂え!

堕落した人間よ本性を顕せ
おまえは邪悪の樹だ
おまえには屑ほどの価値も無い
いつも死ぬのは貴様だ!


「あぁは、ああ、いあ ぐっあ、いあ グ... 」

男は耳をきつく押さえていた。
しかし頭に共鳴する声の暴動は止められない。
雪崩打つ意識に亀裂が走った。
彼はその稲妻を聴いた。自分の頭蓋が割れたのだと信じた。
逃げ場の無い深い恐怖に呑まれ、おぞましい暗黒が迫り、歪み壊れた心の残骸を塗りつぶした。
彼は咽喉が破れるまで絶叫し続けた。

「あ...あぁ あぁ! やめぁぁあ! ああああああああ!
あああああああああッ!」

いきなり全ての機器が作動を停止し慌てふためいていた研究員達は、密室をつんざいた苦鳴に仰天し、振り返った。彼等の眼に飛び込んだのは、部屋中に安置された黄昏の石、その蛍光が照らし出す、惨劇だった。

痙攣に支配されもがき苦しむ男の首を割り裂き、溢れ出している黒い黒い何か。
汚泥のような粘塊が、びちゃびちゃと音を立てて垂れ落ちていく。
さっきまで人間だった者が食い破られ、人にあらざるモノへと解体されている。

魔獣さながらの咆哮に、声も無く引き攣っていた彼らは、あまりの怖ろしさに縛られた足を縺れさせながらも、ドアへ殺到した。

「...わ...うわ、わ、なにあれ、あは、あは 」
「あ、あ、止めろ、だれか助け、あれをたすけて 」
「た、た岳羽さんを! 」


―――騒然となった部屋の隅で、自失する幾月の目の前で、
男だったそれ(・・・・・・)の内側は崩壊した。







金赤の残照が校舎を紅く染めている。

月光館学園の門前にカレラGTを停め、桐条武治は、窓を開けて春めいた風が運ぶかすかな汐の匂いを吸った。時計に眼をやり、煙草を取り出した。火をつけてくゆらせながら、父、鴻悦が現れるのを待った。

コの字型に建てられた校舎の、元は広い中庭のあった中央に、建設工事用の養生シートが張られていた。冬休みを利用して突貫で進められた工事は、最も騒音の激しい工程を無事に終えている。

出張先で思わぬ震災に遭った武治は、怪我のためにしばらく仕事を休まざるを得なかった。鴻悦に強く静養を勧められたこともあり、退院後は別荘のある島に3ヶ月もの間滞在していた。

はじめは復帰後に押し寄せるであろう忙しさを思い、かえって憂鬱な気分になっていた彼だったが...しかし、仕方なく向かったはずの静養地で、妻と娘―――とりわけ、4歳になる美鶴と過ごした時間を望外の幸福と感じ、結局は鴻悦の計らいに感謝したのだった。

武治が島での妻と美鶴の笑顔を反芻し、楽しんでいたところに、ようやくヘルメット姿の鴻悦が秘書を従えて姿を現した。武治は煙草を灰皿にもみ消し、ドアを開けた。

「なんだ、来とったのか 」

「はい、父さん。お久しぶりです 」

杖を振り回すようにして歩み寄り、鴻悦は横目でじろりと武治の車を一閃した。
「相変わらず狭苦しい車を好んでいるようだな 」

「日本なら、これで充分ですよ 」
実家のガレージから一度も車道に出たことの無い、全長6m級の外国車を思い浮かべ、武治は控えめに反論した。

「わしの言う意味がわからんのか 」

外したヘルメットを秘書に渡しながら鴻悦が振り向けた視線の先には、頑丈この上ない、遠近感が狂うような大型車が停められていた。車内には雇い主を待つ運転手と第二秘書の姿があった。彼らはいつからあそこで待っていたのだろう、と武治は考えた。「...自分で運転する方が性にあっております 」

「口の減らんやつだ。 また怪我でもしたらどうする 」

鴻悦に問われて武治は、ホテルでの激しい揺れの中で至った、最期の気持ちを思い出した。

“もう、駄目だ。私は死ぬ。ここで死ぬのだ。” ―――それは、奇妙に静かな“諦め”だった。

あそこで、自分は死んでもおかしくはなかった。
死にかけたから、どうだというのではない。

ただ、死を前にして自分の心がどうなるか・・・・・・・・・・それが、分ったのだ。

“諦め”だと知ったのだから、次がいつであろうと、もう死について考える必要は無くなった。
彼にとって震災とは、そういう体験だった。

「その時は天命でしょう 」

「この死に損ないめが。 戦地帰りの様な面構えになりおった 」

なんとも答えかねて、武治は曖昧に笑った。
そして本題に入ろうと、校舎を隠す巨大な建築現場を見上げた。

「...私がいない間に、随分進んだようですね 」

「うむ...わしの全てだ。 誰にも邪魔はさせん 」

「そうですか... 」 父親の気難しい語尾の強さに阻まれ、彼はいったん引くことにした。「...先週の名士会の集いはいかがでしたか 」

軽蔑を込めて鼻を鳴らし、鴻悦は長々と吐き捨てた。

「いつもどおりだ。虚しい世辞を社交と勘違いしよる輩が多くてかなわん。
やっと口を閉じたかと思えば、今度は蒙昧な投資話だ。
仕手スジも法律も知らん政治家が、現地に行けもしない戦場の油田にコロリと騙されおって。
金が無い事だけは伝わったのでな、掛け捨てでくれてやった。
どのみち奴に来期はあるまい。
どいつもこいつも、時間を無駄にする莫迦者どもが... 」

「これは手厳しい...なら私も単刀直入に伺います 」 何も知らないうちに進んでいた計画。それに感じた怪しみを、武治は表にださずにはいられなかった。再来年になれば、ここに美鶴が通うのだ。
「一体ここで、何を始められるおつもりですか 」

息子の真面目な顔を眺め、鴻悦はつぶやいた。

「ある男の夢だ。 ...遠い昔のな 」 ふと振り返り、大人しく控えていた秘書に車へ戻るよう手振りした。 

秘書が声が届かないところまで行ったことを見計らって、彼は続けた。
「なあ武治、人はなぜ..死なねばならんと思う 」

「...は? なぜかと言われましても... 当たり前のことでは... 」

「当たり前か。 まだまだお前には任せられんな 」

詰まらなさそうに嘆息を洩らし、老人は首を振った。

「いつの世も常識は覆されるためにある。
わしは過去の成功にはこだわらん。 失敗もな。

新たな地平の開拓が、桐条をここまでにした秘訣だ。 ...覚えておけ 」


言い置いて、鴻悦は自分の車へと歩き出した。

その背を見送りながら、武治はふたたび煙草を取り出した。








一刻の眠りの間、夢は哀れな犠牲者を攫い混沌へ放り込み
閉じた瞼の内にしか投射されない鮮やかなドラマを突きつける。
しかしそれは目覚めの瞬間に涙さながらに流れ落ち、
はじめから何も得てはいないのに後に残るは―――喪失だ。

心や感情、そして夢は、他者の眼には見えず触れることも出来ない。
なのに、確かに“在る”のだから怖ろしい。





...はは、は

なぜ、僕はここにいるんだ。
もう...全部が嘘だと知ってしまったのに。


...もし、もし誰もが他人の“あれ”を眼にできるとしたら...

もしあの時、他人の悪意や殺意を見ることが出来たら...

...父さんや母さんは、逃げられたかもしれない。


みんな、みんな死なずに済んだ。

あれは、あれは

確かに見た...

もし、あれが、“人の心”なら...

......

ああ...くそ! たまらない。

―――なぜ、あんなものが!

“心”の正体が、あんな化け物だったなんて!

脳が意思や感情にとって何なのかすら、
確かなことは何一つわかっていなかったじゃないか。

それは、人にとって幸せなことだったのに。
もう、遅い... 僕は、知ってしまった。

......

人間はあんな...制御できなくなるかもしれない、
眼に視えない化け物を脳に巣食わせていたのか。

化け物の本能が、人に糧を探させる。
化け物は人と繋がろうとする。
あの化け物は、他の化け物を憎悪する。

きっと...あの化け物は、必ずいつか人を滅ぼす。

―――はは、滑稽じゃないか! 僕は、“人間の真実”を見た!


なのに僕には何も証明できない。なにも!
あの男は、元通りになっていた...精神以外は。


それに、あんな存在を世間に知らせたところでどうなる?

僕も相手も...生きていかなければならないのに。
何事も無かったように、過ごせるのか?

相手が、自分の敵だと知ってしまっても?
僕が、相手の敵だと知られてしまっても?

人間が、あんなものを抱えていることを、誰も...知らない。

みんな、夢から醒めたみたいに、全てを忘れていた。

なぜ僕は、僕だけが覚えてる...

ははは...分りきってるじゃないか。
どんな夢も、忘れることが出来ないからだ...

はは、はははは...ハハハッ

...人間は、怖ろしい化け物のサナギだ!




...僕の中にも、あの化け物はいる...

...い

いやだこわい、嫌だ。 怖い。こわいよ、あの怪物が怖い!

ぼくは、仮面を被らなきゃ、だれの敵にも、ならないように、

け、決して外れない仮面を、かぶらなきゃ...






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