Persona3小説 King. 儀式の枕 (ファルロス×エレボス)★◇◆
P3 NOVEL
死神異聞録 (~07年5月 過去編/P2微クロスオーバー/18話/★◇◆)
King. 儀式の枕 (ファルロス×エレボス)★◇◆
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King. 儀式の枕 (ファルロス×エレボス)★◇◆
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人知れず、世界は滅びと再生を繰り返している。
ここは意識の海...
思わぬことは起きず、
想う果てが揺らめく占水の鏡。
時にあなたは追憶し、現在の行く末を夢想することがおありでしょう。
それは過去を覗き、未来の可能性を視るということ。
私の領域は、心の旅人がおとなう夢幻の扉の向うにございます。
さて... 先ほどベルベットルームへ、
我が主の化身がおいでになりました。
アルカナの次元に生まれた大きな変化を視察なさった主は、
本社へ帰還される前に私共の元へ立ち寄られました。
「...これはこれは、フィレモン様。
エリザベス、何かお飲み物を。」
そして、いつものお席に着かれたあと(近すぎて眩しゅうございますな)、こう、お話になりました...
「よい、イゴール。あちらを長く留守にはできん。
それにこの仮の姿では、そんな巨大な湯飲みで茶を出されても、飲めはしないぞ。
ただ...様子が気になって寄っただけだ 」
「畏まりましてございます。
エリザベスは中々よくやっておりますぞ。
ただいまマニュアルの2200000000ページまで研修が進みましてな。
惑星の歴史が44億年でございますから...
...やっと折り返し地点でございますが。
この分でしたら、“影の主”の干渉を受ける日までに、なんとか一人前にできるでしょう。
どうか、ご心配を召されませぬよう 」
「...果たしてそう安心していいものかな。
例え手段を封じられようと...彼奴はそれすら嘲りながら弄ぶはずだ。
更に酷く、最高に狡く...生命を呪う。
そして、変化そのものである“人間”は、時に我らが思いも及ばぬ選択をする。
...油断はできない 」
「おおせの通りでございますな。
わたくしも驚きました...
因果律にて敗れた“あの方”が
次元を超えたこちらで、あのようなお姿でおいでとは 」
「“混沌の暗黒”が持つ千もの仮面は
飽くなき自滅への衝動を隠している。
奴にとっては、どれもが仮初めで虚しい。
それが獣になろうが美神になろうが、本質に変わりなど無い...
...奴が弱き者を破滅へ誘うように、
強き者を完全へと導く私も、結局は人にとって危険な極だ。
魂の望みがどちらかの極に近づけば、
歳月を経て、振り子は必ず逆の極へ、危ういまでに戻ってしまう...
...あの繰り返される営みを、永い間見続けてきた。
奴も私も.. 結局は役目に縛られた、哀れな道化に過ぎない...
.........
だが、“私”は決して“絶望”などできない。
人々により暗黒から切り離された“私”に、
そのようなモノは存在しないのだからな 」
「...さようで。
この先、あの旅人はどのような選択をするでしょうかな。
大いなる死...あるいは大いなる影、両方の対となったあの者は 」
「...始まりから終わりへの道を旅し分かれ道の先を自らの意志で選択できるのは、変化を内在する“生命”のみだ。
我々には“変わること”が許されていない...
いまはただ、“彼”の旅路を見守るしかないだろう。
フッ
...まさに彼奴が言ったとおり、『 見ているだけが積の山 』だ 」
―――人の気配は無かった。温血動物の気配というものは、なにも。
普遍の夜を切り裂いて、一瞬のあいだ、世界の影なる刻があらわれる。
かつての預言者たちがそうであったように、真実を視る眼を持つ者のみが幻視し体験する――
――魔が跳梁する時間だ。
昼間は学び舎がある領域の時空が歪み、見る間に壮麗かつ陰湿な
大伽藍
(
だいがらん
)
が
聳
(
そび
)
え立つ。
難攻不落の神の都にでも似せたごとく何層にも積み重ねられたそれは、天険をつく異形の塔だった。
奇妙に虚ろなその迷宮には呼びあっては夜な夜な増えてゆく奇怪な存在があった。
人々から這い出た影精...シャドウと呼ばれる者たちが徘徊しているのだった。
時おりきちがいじみた鳴声が反響して、神聖に静まり返っていた空間を穢している。
怨念が、激情が形成したこれらの陰獣たちの本質は、つまりは元の人間の
性
(
さが
)
だ。
人々の精神の旅路を象徴するアルカナ...その逆位置である影の寓意にあたる意識が、お互いに呼び合い、誘われてはここに集う。受肉の限界をもつ人間は惑い乱れる宿命であり、全くの光ではいられない。完全なる闇も完全なる光も、人にとっては等しく極限の狂気だ。弱さの隙を暗黒に突かれ影に去られた人々は、調和を失い、空辣な光のみが漠然とある肉の器となり果てた。自我たる影無き精神は、もはや正常な精神ではなかった。
昏き精神の塔...その地上に最も近い階層にあたる場所は、こう呼ばれている...
世俗の庭、デベル。―――そこは黒の花崗岩と白の大理石で組まれた格子模様の床が続いていた。臆病と残酷と狂愛が絡み合う濃厚な嘲りの臭気が、ペストの
靄
(
もや
)
のように満ちている。
そのフロアの一角に、二つの異界に繋がれた存在があった。
迷宮の隅で、双頭の黒い巨獣が、追い詰められた者を、紅蓮の狂眼で見下ろしている。
暗黒神の影に浸されながら見上げているのは、純白と黒の境界が並ぶ薄い衣装を着せられた子供だ。
暗闇を厚く
纏
(
まと
)
う原神の、蒸気にも似た吐息に、
鵺羽玉
(
ぬばたま
)
の黒髪が震える。その陰に半ば隠れて、純真な白い顔、そして凛と見開かれた碧い瞳は、幽かな怯えを浮かべたまま凍りついていた。
空気を伝い、不穏に高鳴る動悸が聴こえる。それと同調し息を弾ませている囚われ人の子供は、壁の中に隠れてしまいたい思いで縮こまった。
眠りについていた自分を鷲づかみにして引き寄せ、夢の異界に追い詰めた存在が何なのかはわからない。
だが、“知っている”のだ。自分よりもこの者が上位であり、適わぬ“絶対者”であることを。
虜囚が慄(おのの)くさまを
炯々
(
けいけい
)
と凝視していた紅い眼が、細くなり笑った。顎の下で怯えている矮小なる存在は、暗黒神であるエレボスが望む世界の破滅を後一歩の処で成し損ねた、懲罰すべき愚鈍な隷属なのだった。
「...貴様が完全に復活するまで、消えぬ呪いで縛ってやろう。
封じられたその器を、暴虐にさらし続け、悲嘆に暮れさせよう。
生ぬるい悪夢ではないぞ。
そしていつか、恐怖で
腸
(
はらわた
)
を捻じ切ってやろう。
檻を奈落へ落とし...舌の根を震える歯で噛み切らせてやる。
現実の屍骸から貴様を引きずりだし、鞭で打ちすえてやる為にだ。
この私を心底、失望させた大罪.. その罰にな...」
いかなる抵抗も無にさらしめる完全な影の思念は低く唸った。それは相手の柔かな不完全さに侵入して緊縛し、渦を巻かせる憤怒の声だった。
おのれが自覚する“喪失と脆弱さ”を反映して、少年の中で、死神のアルカナは小さな思念体にまで転落してしまっていた。暗黒が引きずり込んだ悪夢は怖ろしい怒りに彼を曝した。細く頼りない自分の身体を抱きしめて縮こまるしかない。
精神はそれほどまでに自らの想いを形に顕してしまう。童子と化した我が身の意識が危うく悲鳴を洩らしそうになり、彼は瞼をきつく閉じた。そのまま恐怖を閉め出したいように叫ぶ。
「誰..? 僕は知らない、な なにもわからないよ!
気づいたらあそこに居たんだ、僕は貴方に何をしたの?
っ、 ..どうして怒ってるの? ここは、貴方のお城なの? 」
「愚かな...
地上に散ったアルカナと共に、小宇宙の記憶全てを砕かれたか
いかにおのれを忘れようと、私に“慈悲”なる感情があると思うな。
...私は全ての次元に繋がる混沌であり、純粋な絶望だ 」
ひび割れた息が、轟音をあげてアルカナを襲った。無数の硝子の破片のように鋭い悪意の息吹を叩きつけられる。彼は肩を竦めて迷宮の壁に頬を押し付け、融けこまんばかりに逃れようとした。だが滅びの塔の壁は真の主人の為に冷たく彼を拒み、あまつさえ四肢をその場に縫い留め、磔にした。
「ぁ、 ...放して、やだよ、はなしてったら!」
「ククク...
餓鬼にまで萎えた貴様に与えた呼び名は
Phallus
(
ファルロス
)
...
元型の祭壇に屹立し君臨する、かつて人間どもの崇拝を集めた性なる神の名だ。 ...フハハハハハハハ! 」
皮肉を込めた嗤い声が辺りにおぞましく立ち込める。潤んだ靄を突いて、哀しみの声が叫び、響いた。
「待ってよ! ぼくは、なにもしてない..!
ここはいやだ、出してよっ! ゆるし、... ッ!?」
太く凶悪な爪が足首にかかった。囚人衣の胸元を抑えていた子供はひっと小さく息をつめた。少しでも動けば鉤裂かれてしまいそうだ。祈りも虚しく、邪悪の蹄が一気に脚を掻き上げた。顔近くまで挙げて壁につけた手が、未知の恐怖に握り締められる。
「何もしていない...確かにな。
成すべきを成さず、雄の肉に取りこまれた気分とは如何なるものだ?」
顔を覗き込まれ、子供の碧い瞳が焦りを浮かべて瞬いた。唇が震え、目前の奈落に何かを訴えようと形づくられた。しかし、そんな動作さえも黙殺されようとしている。
艶めいた爪の切っ先が、僅かに開かれた肢の間にあてがわれ、柔弱な器官を探り当てると、一気に喰いこみ突き立て、容赦ない強さで圧し始めた。
「ぅッ あ! ..ぁ、 ..あッ ..あぅっ!」
無遠慮に凶暴に芯を刺されるたび、悲鳴がこぼれ落ちた。
「全ての人間は、この太陽の化身...男根より
胤
(
たね
)
まかれた。
生殖の結実に繋がれ、皮に包まれた肉が逃れえぬ性の衝動と死滅...
愛の介在も無く秘術によって地上に創られた貴様は名乗るがいい。
...儀式の“ファルロス”と 」
「ッ.. 名..? っぼく、は...」
嘲りも露わな暗闇の声が、爪が、彼の
霞
(
かす
)
みそうな意識をかき乱し断ち割ろうとする。
抗うためですら漆黒の闇に触れるのを怖れた。諸手で髪を掴み、ぎゅっと顔をしかめたファルロスは激しくかぶりを振った。
「だれなの!? ...ぼくは!」
「俗世に満ちたアルカナの交わりに形を与えられ、
人間どもの垢染みた法則の“奴隷”に朽ち果てたのが貴様だ。
地上に堕ち、砕かれ、神聖を失った貴様に...教えてやろうではないか。
異次元の私... そして血肉に封じられた貴様に相応しい、汚れきった支配というものをだ...」
陰獣の王が放つ深紅の怒りは、荒々しく宮殿を揺るがし、虚空すら慄然とさせた。童神が囚われた部屋に満ちる気配が変わりはじめている。
時至り、轟音を発して赤黒い竜巻が巻き起こった。部屋を埋め尽くさんばかりだった暗黒神の姿は、いつしか浮遊する黒い砂と化して、天井に生じていた空間の歪みに雑じり合った。
歪みはおぼろな光と闇が交互に綾をなし、中心の穴から混濁した螺旋を放っていた。穴の中は何もかもが交雑していて何色とも呼べず、ただ不気味な気配が見え隠れしている。
そして、まるで砂時計の内側のように、闇の神の纏っていた巨大で重い霧がザラザラと崩れはじめた。風化したように、白い頭骨が現れ、巌のような歯が露呈した。噴火山のマグマのように、眼球が融けて濁流となり、燃え落ち滴りながらも逆流し、時空に空いた穴へと吸い込まれてゆく。
ファルロスと呼ばれたその神は、胸の内で膨れ上がる不安と葛藤を必死になだめ、安心と冷静さを取り戻すよう努めた。意識の片隅では、自分が傷つき易い“何か”を護っている状態であると悟っていた。自分が怯えれば、その“何か”も怯え、恐怖に苦しむことになる。
彼はゆっくりと手を下ろし、硬い面持ちのまま、眼の前の変わりゆく存在を見あげた。彼を思うがままに扱うことを躊躇しない、無形の悪意を湛えた巨神。それは歪む天から大量の胞子と化して降り、徐々に異界の姿を形作りつつあった。
「やっぱり...貴方が何者なのか分からない。
なぜ、僕を憎んでいるのかも分からない。
...“覚えていない”と言った方がいいのかな。
だけど、言うよ。
僕は誰の言いなりにもならないし、支配はされない。
貴方が僕に何をしようとね...」
「クク...それでこそ、我が愛する唯一の友... 」
暗黒の姿は、煉獄の守護獣のごとき形から、変容をとげていた。
艶のない黒いスーツ姿に、冥界の火流が飛び火したかのような焔の双翼を生やしている。
無貌の神の異名に相応しく、青白い皮膚に唇が一筋あるだけだ。
その裂け目から鋭い歯がのぞき、三日月のように妖美な輪郭を描き、嘲笑の笑みをつくった。
この次元ではエレボスと呼ばれる闇の神は、ファルロスに近づき、乱暴に顎を捕らえ、無理矢理、頭を仰き反るようにさせた。
「あっ...」
愕然としてファルロスの両眼が丸くなった。碧おもてに炎がちらついているような瞳に動揺の影がさしこんだ。
鼻先に、無数の牙が溢れた顎が近づいていく。その奥では紅く発光した花弁のように肉厚の舌が、陰湿にもぞりとうごめいていた。
凄絶な威嚇に視界を侵され、背筋がゾクリと痺れた。瞬きも忘れて異形の容貌に魅入った。
長い舌が空を舐め廻して引っ込む。開いたままの顎を動かすことなく、エレボスは地獄の響きで囁いた。
「愛無き欲望は私が与える狂気の衝動だ。
孤独に置かれ飢えが募った人間は...
餌食を求め...
おのれの
兇刃
(
きょうじん
)
がどこまで犠牲者に呑み込まれるかを知りたがる。
私自身はその愚かな衝動に駆られたことなど無い
...が、
クク...だがこの機会に..
人間どもが耽溺する程のその享楽を、貴様で果たしてやる事にしようか 」
唇が大きく開き、剥き出された牙が閃いた。素早くファルロスの咽喉に寄せられたそれは、次の瞬間に深々と食いこんだ。驚愕にひきつり蒼白になった顔が、次いで灼熱の混沌を打ち込まれ、苦悶に歪んだ。その熱さ、純粋な絶望が与える強大な痛み。力を失い膝が崩れ落ち、冷たい石床に手がつき、腹這いになった。その背に、黒い邪神の姿が広がった。
「いッ!! ――――ッ!」
後ろから首筋に牙を突き立てられ、その毒牙からエレボスの悪意が注入され、爪の先まで暗く冒されていく。冒されながらもファルロスは、か弱いながらも残る力を尽くし自らを鎧った。といっても、せいぜいできたのは、微動だにせず声も上げずに耐える事ぐらいだ。苦渋に満たされ、食いしばる歯の隙間からブツ切りに押し出された。
彼は気付いていた。何か怖ろしい事の片棒を担がされているのだと。これが現実であれ夢であれ... この深遠なる存在が語った言葉は、自分が忘れ去った世界を象っている。記憶を失ってしまった事をよそに、何かが起こりつつあるのだ。途方も無く不吉な事が。
黒々とした冷たい闇がむせ返るほどに凍みこんでくる。息を詰めて、ファルロスは最後の砦を護るべく手を握り、意識をかき集めた。
何故かはわからない。
しかし、“そこ”だけは死守しなければならない。
そうしなければ、“二人とも”破滅だ。―――
「...見上げたものだ。
ゼウスに春を鬻ぐ少年の如き姿にまで堕落しながら...
私の絶対なる呼び声に扉を閉ざすとは 」
エレボスは哂い、ふたたびギザついた血塗れの咬み痕に唇を重ねて吸った。冥い誘惑が溶けた毒が、呼び声となり意識を侵していく。連れ去られる先は暗黒の最下...奈落だ。
圧し掛かられたファルロスの身体が激しく震えだした。眠りの時を、地上の肉との共棲に費やしていた少年の肢体が。肌の破れ目から潜りこみ、直接意識に舌を穿ち、心を嬲る意図で舐めずりまわすエレボスの接触が、急激に耐え難いものに変わっていく。真の力を掻きたてた邪神は、破片になりはてた幼い神を手加減も無く冒涜し続けた。
熱狂する災禍、墜落。―――
白い幻影に嫌悪され、石を投げられた辛苦の味。
粉砕の鉄槌てっついに断ち割られ、果たせなかった役目。
責め罵った声、――塵に等しい価値だと...
こらえきれなくなり、ファルロスは唇を覆った手の内に、悲鳴をくぐもらせた。
「――――――やぁっあッやめて! ッああ、這入ってこないでっ!
こわ れ ちゃ、 ぼく の ... 」
防衛に専念する間うつろだった瞳に発狂の暗闇が兆した。赤黒く染まった意識の波に覆われ、エレボスを挟んだファルロスの両足が突っ張る。床についた片腕が伸ばされ奮え、強張った指が救済を欲して掴む形に曲げられた。
無限の恐怖だ。真っ暗な口に呑みこまれて転がされる“悪夢”。
棲家にとっては“夢”でしかないそれも、自分の身には確かな現実として刻まれてしまう。
それでも、不確かで曖昧な何かを、解らないながら気遣い続けることにした。
ファルロスの瞳に、突如、蒼炎が躍った。
全身にくまなくひたされた闇が、鮮やかな匈奴の可虐へと変貌し、遠慮なくまさぐり始めたのだ。
凶兆が忍び寄り、それはすぐさま彼を、より深くより残忍にえぐった。
彼の身体は撥ね、息つく余裕もないまま、暴れだした。
「も.. やめてぇえッ!いやぁああ!あ゛ーッ!! 」
絶叫が塔に反響した。首の痛みだけでも視界が血塗られるほど鮮烈な悪意だというのに、それすら殺し、背骨を疼かせる怖ろしい快感が芽生えた。その淫蛇のごとき感触は、ズルズルとファルロスの背筋に沿って腰へ伸びていく。まるで一つの入り口であるかように、傷に穿たれる舌が、触れられてもいない過敏な裏をも刺激しはじめた。エレボスが故意に操っているとしか思えない、苛烈なまでの激震だ。高波に襲われ、焦がされたファルロスの意識は熔けて乱反射した。彼が堅牢に護る奥底に僅かな聖域を残し、全てが痛みと疼きに裂かれていく。重く迸る鼓動が、肢の奥で狂わんばかりに逸る。か細い身体が淫虐に揺さぶられる。指が開き、折れんばかりに床に縋ろうと引っ掻いた。
「ぎっ....ひぃ、ひ.. ヒッい、イ、い゛っ ...」
「クク... 欲しいのか。
いいとも、与えてやろう.. 人間と同じ方法でな。
我が欲望の吐け口に、美童の貴様を抱くのも悪くない...」
柔らかい咽喉を咬んだまま問いかけて、エレボスは自分の釦を二つ外して衿を弛めた。
組み敷いているファルロスの背は、傷口から魔性のウィルスを送り込まれてびくびくと波打っている。髪の根が汗に濡れはじめていた。邪神は彼のあがきを咽喉の一点で抑え、片脚を挟んで縛めた。餌食の下肢を包む縞模様の衣装の上から撫で回せば、子供らしい小さな腰の骨がわかる。鋭い爪の伸びた指が服と肌の境を探して這った。単純なつくりの衣装の背から手がするりと入る。いたずらに肌をかき鳴らされたファルロスの痩せた身体が、前部を守ろうと丸められた。だが矛先は背中から腰の下へと、果皮のように衣をむきながら更に進み、薄い肉が貼りあわされて閉ざし守る、欲情の捨て場が隠された狭間へと滑り入った。
「っ...あっ やめて、もう厭だ、やめて...」
「ならば、この淫らがましい孔の息づきはなんだ...
その口が吐く言葉はここと違い、何一つ真実ではないのか? 」
冷やかにあしらい、舌先で耳奥までねぶり、接吻を加えながら...エレボスは囁いた。そして苦しみと快楽に追い詰められて歪む童形の横顔を嘲笑う。嗤いながら柔肉をもてあそんでいた中指を、人と同じ場所に造られた初物の口に突き入れた。ファルロスの内側はぬめり、引き絞られる寸前で邪神の指を受け入れ、根元までのみこんだ。
「―――ぎッ! きゃあああッ!!」
悲鳴がほとばしり、中を無遠慮にえぐり弄ぶ可虐から逃れようと腰が高く跳ね上がった。子供の下半身の中で、エレボスは、後ろに穿った指を根元で曲げ引っ掛け、そのまま上へ吊り上げた。そうして引き寄せた白い果実のような腿に、己の猛らせた象徴の形をおしつけて刷り込んだ。
「ぅああッ っは、 う.. 」
その瞬間、今まで切なげに眉をしかめ、縁に潤んでいたファルロスの眼が熱をたたえて赤らみ、朦朧とさ迷い始めた。背後の奈落に強要されている硬く大きな“何か”の感触。その塊りは彼の肉の反駁を誘うように、肌の弾力を欲して突いてくる。最初に股間を弄ばれながら聞いた“男根”なる言葉とそれは明瞭に結びついた。神聖な大いなる陽のイメージが、ぎらついたフレアの熱で彼を包んだ。
「あハぁ、 は...ぁ、..ハァッ、あ、」
迷宮の陰惨なモザイクに、湿り気を帯びた幼い喘ぎが揺らぐ。守ることのできない粘膜をちくちくと刺す、爪先の冷酷さ...指の腹がうごめいて、淫猥なざらつきに襲われ、膝がガクガクと震えてしまう。
新たな指が、入り口を拡げながら侵入してくる。増えた指が壁と擦り合いながら、狭い道を無理に押し広げ、奥に至るまで進む。ひくりと咽喉奥が動いた。口腔に溜まった温い甘みが、痺れる刺激に開いたままの唇からこぼれ、舌先から石床に滴った。
ファルロスの肌理細やかな皮膚に、彼の陥落を思い知らせるかのように、邪神の鉤爪は綻びをひろげてゆく。エレボスは、手中に堕ちた少年神が秘める微熱の疼きを、悶える脇腹の皮膚の感触を、愉しみながらゆっくりとてのひらを這わせた。上衣をめくりあげ、胸に飛び出した尖りをかすかな接触を与えつつ撫で回す。あるか無きかのその摩擦に戸惑い、ファルロスは掠れた声をあげて中身を切なそうによじり、エレボスを締め付けた。
「...貴様の痴態はナルシスの妖しさではないか、ファルロスよ...
いずれは墓場で不遇をかこつ運命の神とは..思えんほどだ...」
低く、淫靡に囁かれる声が上から降りて、彼を逃れえぬ鎖に繋ぎとめようとする。だが、ファルロスには気を向ける余裕さえなかった。二本挿しに埋め込まれた太い指の腹は、薄い襞の引き攣り、辱めに我を忘れた呑込むような動きを味わい、ねっとりと上擦りながら掻きまわしていた。「っく... ンくッ、ンうっ」後ろから襲う快楽を噛み締めてびくつく下肢から衣が抜き去られた。
エレボスはそのまま露わになった膝を押し広げ、
熾
(
おこ
)
りに震える細木のようにしなやかな脚を外側へずらした。
そして陵辱のために変化させた自分の股間を解放した。既に弾けんばかりに膨張していた男根がまろび出る。その長く太い鞭は、ファルロスの肢の間をしたたかに打った。
(......ッ、)
驚きに蒼ざめ、本能的に閉じようとするファルロスの抵抗を潰すと、エレボスはのしかかったまま小さな身体を開いていった。
頭や体は蕩けながらも哀哭に胸を灼かれ、とっさにファルロスは腕に顔を押し当てた。この者の意図がなんであれ、不吉な予感を超えた確信が指し示している。自分を組み敷いている相手が目的としているのは、いま疼きがたまらなく蕩けている下半身の奥だ。冥い欲動の波が、獣のように彼を犯そうとそこへ狙いを定めている。
もう、ここから消えてしまいたいと願った。しかし、その懇願すら粉砕する快楽への疼きは、芯を弾けさせようと奏でる残酷な脈動をやめない。彼は腰を釣上げられたままの姿勢で、顔を伏せ、手首の袖口を咥え、きつく噛んだ。何をされようとも悲鳴、喘ぎを洩らすまいと自らに課し、塞いだ。
その様子に気づいたエレボスは、はだけられた腰に腕をまわし、緊縛に身をよじるファルロスを、床に座した自らの上に引き起こした。とつぜん体勢を変えられて朦朧とし、幼神が戸惑う様を微細に指先で感じとり楽しんだ。そして、思わず唇が袖からはなれるのを見届けると、今まで孔を広げ捻じ込んでいた硬い指を、叫び声があがるように、曲げたまま抉るように引き抜いた。
「ひっ ...ッイ!」わななきのたうつ身体に邪神は笑みを浮かせた。そのまま両腕で後ろ肢の膝裏を掬い上げた。もがくファルロスの肢を抱え、大きく開かせる。
ファルロスの眼に、後ろからあられもなく晒された自分の姿が、眼の前の壁に薄い鏡像となって映った。
のっぺりとした容貌に陰花のごとく牙が咲いた名も知らぬ者が、自分の身体を胸まで串刺しにできるほどの黒い大蛇を何匹も生やし、サバトの悪魔のように座禅している。
脚と変わらぬ太さのものが、逆立つ鱗を輝かせ、蛇腹を伸ばして目前で鎌首をもたげた。
ファルロスに向かって牙を剥いたそれは、
赤い眼に走った黒い亀裂を細め、先割れた舌を出しなめずった。
今からお前の内側を貪ってやる、と嗤った―――
意識に暗雲が発ち込め、ファルロスはもがき、無我夢中で壁に向かって腕を突き出した。
「...たすけてっ! 厭だあッ! やめて―――ッ! 」
「貴様は実に私の扱いが巧い...
この叫びと恐怖..惨たらしい遊戯にじつに相応しい序曲だ...」
その惨劇が少年を襲ったとき、
虚空を掻く両腕が弾み、弧を描き、力尽きて垂れ下がった。
弓なりにしなった背を裂いて、氷の煉獄の鈍柱が髄と襞を貫いていく。
絶叫するファルロスの頭がエレボスの肩に倒れかかり、開いた唇から舌がはみ出した。
絶望に征服され、侵攻に突き上げられ、屈服の味を刻み込まれるたびに、瞳孔の絞られた瞳からは、深紅の雫が溢れて飛び散った。
それは、彼の青白い頬を濡らし顎へとつたい、犯される身体の上を滴った
(.....赤...
赤
(
アカ
)
は ...)
“檻”に群がる弱き者は
私に影を握られ可虐の衝動に狂乱するだろう
我らが婚姻を阻んだ者よ
穢れた肉ごと苦しむがいい
底無しの奈落へ落ちゆく絶望に
「ぅあっ...ッ ハァ、 ハァ........は、」
目覚めると、冷たい汗が全身をびっしょりと覆っていた。
破裂してしまいそうな怖れがこみあげ、激しい動悸に襲われる。
ゴトゴトと音を立てて轟く。 こめかみに刺すほどの痛みと焦りが伝う。
「...はあ、はぁ、 ...、 ふ...ぅ、」
呼吸がなんとか鎮まるまでには、長い時間が必要だった。
彰はベッドに仰向けに横たわったまま、恐る恐るそっと眼を開いた。
冥い天井に、無数の記号や象形が煌びやかに踊っている。
白いカーテンから透けている、色つき硝子のビン底に溜まった光。
なにもかもが水面を通してみているように、茫洋と霞んでいる。
身体はまだ夢の中にふわふわと浮いているようだ。事実、彼はずっと後になるまで、この不思議な夜のことを夢の続きと信じていた。
(へんなゆめ...)
回廊から垣間見える、光り輝く空、風の上を駆ける白い雲。
どこかの宮殿に、大きくて立派な玉座が置かれていた。
おとぎ話の中でほんものの王さまが座るような、
赤いふかふかの特別な椅子だ。
玉座には、不思議なモノが立っていた。
とても大きくて、太くて、最初は樹の幹かと思った。
ぼくの裸の脚みたいな色をした、肉と皮でできた不思議な樹。
てっぺんは、髪も顔も無い、まるい頭に似た何かがのっかっていた。
頭のてっぺんには、黒い小さな眼がひとつ、あった。
それはじっとうごかずに、まっすぐ前をみつめていた...
その後ろには、奇妙な真っ暗闇があった。
紅い眼が光る真っ黒な風車が、裸の王さまを頭からばりばり食べようと口をあけている。
だれかの声が天空に響いた。「そう、あれが人喰らいだよ...」
(この枕をもらってから、へんてこな夢ばかりだ...
...あした、こっそり川にすてに行こう。)
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≪ Queen. 智慧の実 (デス×主人公)◇
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P3 NOVEL
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Wand. 埋み火の旋律(仔主受け)☆◆ ≫
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