Persona3小説 Queen. 智慧の実 (デス×主人公)◇ 忍者ブログ

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Queen. 智慧の実 (デス×主人公)◇


水晶の
坩堝(るつぼ)のなかで、高らかに笑う魔獣の声を聴いた
まっ黒なともだちが、歓びに角を震わせて吼えている

ぼくが役目を果たす刻の到来を
暗黒(ともだち)祝福してくれた


......

ねえ
きみの希望は、ニンゲンにとってもやっぱり希望なの?

そっか...そうだよね

あんなにたくさんの命が、ぼくを招いてる
ぼくを、呼んでる...

よかった
ニンゲンが、ぼくを選んでくれたんだよね

そう、だよね

ソウゾウしてくれなかったら、ぼくは存在できないもの!

...待っていて
もうすぐ、終わりがくるよ

みんなを、苦しみから自由にしてあげる
どんな苦痛や束縛からも、きみたちを解放してあげる

世界に満ちた深紅の嘆きを終わらせる
それは
ぼくが贈ることのできる、たった一つの優しい
加護(ギフト)だから


消滅する宇宙に独りで残される時...

そのとき僕は
どんな顔をしているんだろう


これから12のアルカナ、生命の辿る旅路の影に姿をもらう

本当ならぼくは産まれるはずの無い、終焉に待つ者
幾億年も先の遠い未来に、寿命が尽きた星を看取る定めだったのに...

古の契約を、誰かがみつけたのか
星に満ちる生命が自ら結末を選ぶ方法
最初の生命が母なる者と交わした聖なる約束

あの契約を...人間が

僕は架せられた宿命に従い
いまここに
きみが星母と交わした婚約を成就させよう。


The Fool
熱狂の風よ、意志の泡から生まれた僕を迎えて

The Magician
強い意志よ、僕を掴み滅亡の夢を叫んで

The High Priestess
心の奥底に満ちる呼び声、僕はそれに応える

The Empress
生が持つ輝き、それは母なる者がもたらした奇跡

The Emperor
誰かが望んだ消滅が、やがて世界を占領し支配した

The Hierophant
這い寄る暗闇に導かれ、彼だけを友に、僕は意識の海を漂い続けた

The Lovers
友だちの喜びは僕の歓び。心が通じ合う意味を、僕は知ってる

The Chariot
きみを囚われの絶望から希望へ解き放つ、それは僕の翔ける力

Justice
僕は全ての者たちに等しく虚無を捧げよう

The Hermit
世界は檻の崩壊を望んだ。その願いを必ず果たそう

Wheel of Fortune
永劫、時と共に回り続ける、残酷な孤独が待っている

Strength
僕は力絶えるまで受け入れる。それが決められた定め

The Hanged Man
避けようのない運命の吊るし木が、僕から反逆の術を奪う


時は来た
滅びの塔よ、婚姻の鐘を鳴らせ

彼方より女神が堕天した刹那
星に始まりの命が生まれた

誕生の記憶は忘れ去られ、誰も真の名を知らない

深淵に眠る、あの母なる花嫁を呼び覚ませ

冷徹なアルカナの理よ 世界の神々の願いよ 全ての命の意志よ

魂たちよ

僕は きみ達の望みに応え 降臨する

滅びを告げる神(THE DEATH)







月と地球は惹かれあう。

互いに引き寄せあう海の波は、
(なぎ)の夜も嵐の夜も止むことなく碧い惑星を揺るがしてきた。億年を超える太古に星が聴いた最初の歌は、いまも変わらず地に伝わっている。

その歌はつねに地を削ぎおとしてゆく。“現在よ壊れろ”と囁く変化の調べを奏でる。降り積もった過去は命の記憶を留める
(ひつぎ)となり、遺骸たる思念はその中に宇宙の記憶を留めてきた。
いずれは遥かな未来に来るべき星の終焉のために、太陽と月と海と大地は歌い続ける。
全てが消え去るときは、いつか訪れる。

寄せてはかえす波間から生まれいづる幾千幾億もの泡。
そこから最初の生命は生まれた。いまは存在も名も伝わらぬその者は、“あの旧い記憶”を持っていただろうか。
原初の惑星に“死”をもたらし、変化の鉄則を与えた者。
かの“星を喰らう者”が到来し、夜の女王たる月が生じた時の記憶だ。

その現象は、全てにとっての“死”が姿を決めた瞬間であり、
全ての“生”が在りようを決められた瞬間であった。
海に抱かれた、大地にあらざる揺り籠、―――人の世が造りだした箱舟は、いま、
Arcana(アルカナ)に支配された一つの世界を極へ導こうとしていた。

星が歳経た年月、そのあいだに降り積もった幾多の事象...そして夢想が、終焉を前に鎮まりかえる。


......

友だちとは似ても似つかない白い衣の者たち
ただ一人、老王の歓びを除いて
みんな僕を指差し、蒼ざめた波を打ちつけた

これは恐怖
そして嫌悪の色

どうして?

僕は呼び声に望まれて来たはずなのに

どうして?

苦しいよ
痛いよ

痛みを知りながら現れる身体

喰らいあうアルカナの叫び
勝利の雄叫び

食い合ってる

僕が

ぼくが!

たすけて

たすけて、暗黒!

白い衣の者たちが

ぼくを壊そうとしてる...





「発見したであります 」

醜い顔には、腐り落ちたかのように下顎の骨が覗いている。下肢には触手が生えているが、まるで溶解した内蔵が垂れているようだ。その者の巨大な身体は、引き裂かれて
襤褸(ぼろ)と化した黒衣に覆われていた。
Aegisは敵を確認すべく、異様な姿にもひるまず、無造作な視線で探り識別した。

「貴方がDeath...オレの敵。 オレの最優先でありますね?」

エルゴ研究所の爆発によって人工島一帯はジャマーの刺激が撹乱していた。しかしAegisは冷静にデスを見つめ、捉えた映像に向けて、継承した力のコマンドを解放した。

――――PERSONA!

実行とともに、内部にたくわえられた高い熱が激しく放出された。
周囲の質量が一瞬のうち凝縮し、爆発的なエネルギーとなり、噴き上げる高熱の水蒸気の渦をまとい、凄まじく空間を引き裂いた。冷酷な表情のAegisの上に血煙の層雲が現れる。その隙間から畏怖の光が発し、矢のように天空へ立ち昇った。光は情報の海より目指すコードをすくいあげ置換し、瞬時に機械の少年の自我に向かって打診した。

『我はアズラエル...
誕生と死の記録を職とし 神の救いを教示する天使なり

封印の盾よ

その身が壊れようと職務を果たせ
役目のみが汝の証―――』

Aegisが両腕を突きだし身体をたわめ、疾風のごとく跳躍した。月天より大天使のペルソナを背後に、敵めがけて銃弾を叩き込む。死天使の喇叭が闇の審判を敵に告げた。死のアルカナの姿が逆巻く黒煙にとりまかれた。しかし振り下ろされた波動が凶弾を易々と弾いた。死であるデスに、闇の攻撃は無効に等しい。だがデスの欠片は激しい敵意に突き刺されていた。晴れ間に現れたその手には怒りの刃が握られている。基が思念体であるアルカナの具現にとって、また死の属性を持つ者にとって、心の武力である敵意は耐え難く相容れない波動だった。死は敵意を知らない。生命の抗いを知ってはいても。なぜなら、死を攻撃する術などこの世には存在しない筈なのだから。だが生まれるはずの無い13番目のアルカナとして顕在したデスは、赤黒い敵の意志に直面し、怒りというものを学習した。攻撃され、デスの闇の眼窩に初めて敵意らしいものが点じた。それは、Aegisの殺意を返すかのように、彼そっくりの碧い眼光となって顕われた。


ガアアアアアアアア!!

デスは吼えた。腕が振りあがり、黒煙が泡だって千切れ千切れに吹き飛んだ。崩れゆくみずからをも
()ね散らしながら、デスは刃に死の宣告を乗せ、Aegisの残影を()ぎ払った。風の切っ先が至る寸前で、機械は再び上空へと跳んだ。かろうじて逃れたAegisを、再び死の旋風が襲う。その速さはこれまで蓄積したシャドウとの戦闘の記録いずれをも凌駕(りょうが)していた。第一装甲が吹き飛ばされ、Aegisは衝撃にもんどりうって滑空した。重力が襲い、アスファルトの地面に叩き付けられる。凄まじい敵の能力に、恐怖を知らぬ機械の精神に高揚が沸き起こった。これが、イージスの言っていた楽しさか。彼は唾液の出ない舌で上唇を舐めた。最後まで標的を傷つけんと望むAegisは、この、死を知らぬ者の戦いを分析していた。彼の計算では、どのように戦おうと勝機は無いと推定された。なぜなら、イージスから継承したこの闇属性のペルソナでは、デスを消滅させることが出来ないからだ。
―――必要なのはコア、
LPdC(パピヨン・ハート)の解放。
人格をピックアップし、コードを変換...
NOだ。計算できない。LPdCの情報開示には“パスワード”が必要だ。

「この身が壊れようと、役目を果たす。
精神が崩れようと、オレの全てを力に変えて、お前を相打ちに持ち込む!」

Aegisは叫んだ。死の顎を見つめ下した決断は、定義されたペルソナに異変をもたらした。ペルソナが変質したことの意味に気づく間も無く、彼はエネルギーの全てで臨界を目指した。コアから送られる過負荷を告げる信号を無視し、Aegisは名も知らぬペルソナが掻き集めた時空の劫火を纏い、機体を軋らせて地を蹴りつけ、デスに特攻した。障壁を展開した敵の中心をえぐり、片手を代償に破壊し、黒い巨体に穴を開け頭からねじ込む。粘液に似たシャドウが裂け目からドブのように漏れ出す。濁流のような豪腕が轟鳴を上げて刃を振り回し、合金の片脚が切断された。よじれ暴れるデスに振り回されながらも、敵を苦境に陥れたことを知り、痛みを知らないAegisの唇は悦びに吊り上った。
物理的な焔ではない敵意の業火に焦がされ、デスは斃れ臥した。悶絶する巨体からあふれ出すシャドウが水流のように吹き出し、散ってゆく。ニつの属性が融合したアルカナだった塊から、片方である刑死者のシャドウがはがれ、ムーンライトブリッジに染込んでは消えてゆく。実体が崩れるそのたびに力が失われていく。思いもしなかったことだ。これほどまでに世界が自分を拒絶していたとは。デスは半ば以上喪われた哀れな体を、Aegisをめり込ませたまま引きずった。
朦朧と融けゆく自身を垂れ落としながら円かな月の見えるほうへ――

這あってゆくデスはふと、小さな命の気配を感じた。そこには先の事故で横転した車があった。燻ぶる煙の奥で膝をついたその小さな命は、近づく彼を前に逃げるそぶりをみせなかった。

何の恐怖も拒絶も浮かべてはいない。無垢な灰色の瞳が彼を見つめた。

ここで消滅するのもいい――――

意志の総体に望まれて召喚されたはずの自分に、嫌悪と敵意を返した世界。だが最期をこの場所で迎えれば、世界に怨念を残さずに消え去れるような気がした。デスは、指一本動かせば首が跳びそうなほど儚げなその小さな命に腕を伸ばし、そっと爪で触れた。その敵意の無い小さな人間は逃げなかった。頬に触れたそれを避けもせず、歌にも聴こえるかすれた声をだした。デスは僅かに指を動かし、小さなあごをくすぐった。その時、突きつけられた指に落とされた灰色の瞳が僅かにうごめいた。自分を刺激するものが何なのかを知りたいように、顔を引いて眼の前のデスの大きな爪を眺めた。それから舌を出して舐め、不思議そうに首をかしげて“それ”を口に含んだ。
その時、Aegisがずるりと身体を引き抜いた。デスの眼の光が失せ、巨躯が泡立ちながら融けていく。片腕を安らぎの膝に預けたまま、アルカナの化身はムーンライトブリッジの上で崩れ始めた。
シャドウをこびりつかせたAegisも、おのれに限界が近づいているのを察していた。最後に立っていたのが自分であればよい。最高の勝利に陶酔を浮かべた唇が、ふと引き結ばれた。眉をひそめて眼の前の状況を観察した。この身を代償に倒したDeath。その残骸が、ここムーンライトブリッジで崩れ絶える様は、消えた刑死者の属性を求め結びつこうとしているようにみえた。
岳羽から受け取ったデスの情報―――互いに食い合うシャドウの習性。

Aegisの碧い眼が、傍らに座り込んだ少年をみつけた。Aegisにとってそこに在ったのは、自我の反応が無い空の器だった。あの、プラントに立ち並ぶリアクターと同様に、それは空虚を秘めて橋に置かれていた。まるで、自分のために用意されていたかのように。

「あー。 ぁぁぁ... 」

少年が地面を覗き込んでいた。溶けつづけるデスはもう元の大きさが想像出来ないほどに無残な姿になっていた。だが、このままではまた刑死者のアルカナと結びつき、新たな力をえたシャドウに再生しかねない。いつもは後方に控えているはずの、エルゴ研シャドウ回収部隊は今いない。
自分にできる事、任務の確実性を高めるためにしておくべき事―――コレを使って...

判断を下した兵器の行動は迅速だった。彼は少年の首を掴んで引き倒した。
「あうっ 」
Aegisは、痛みに喘ぐ小さな手足に乗り上げ、抵抗できないように組み敷いた。残った片腕で、デスの塊を掴んだ。そして砕けようが潰れようが構わず非情に少年を蹂躙し始めた。ビクビクとのたうつ痩せた体躯を無理矢理引きずり回し、震える小さな口に手を突っ込み、デスの残骸を押し込んだのだ。
「...ッん"んむ、う"っ がぁっ!」
人外の破片を狭隘に送り込まれ、少年は眼を剥き咽喉を痙攣させた。異物に対する生理反応が彼を激しくえづかせる。限界まで開かれた口から溢れたシャドウの形骸をかきあつめ、人形の手は更に体奥へとそれを詰め込んだ。「――ぐッ ぇッ げえぇ"っっ!」顎が外れそうにゴリゴリと悲鳴を上げ、強いられるままに細い咽喉から腹へごくごくと汚濁が移動していく。ワームにも内蔵にも似たシャドウの触手がのたうち、唇から溢れまるで生えているかのごとき陰惨な光景だった。それはビュクビュクとねじれながら少年の体内に隠れようとし、彼を凍えさせるほどに身体の底に溜まりこんでいった。行為を強制され、窒息に襲われ続けた少年の眼球は裏返っていた。悲鳴をあげる余地すら咽喉には無い。耐える自我も意志ももたぬ痴性の身体は、弛緩したまま、内部に逃げ込んだモノの暴発に浮き上がった。
「...ッッ! ―――ッ!! 」

(―――Deathの再生は、阻止できた。)
アルカナの具現であるデスの破片を空の器に封じ終えた、機腕による強姦が止まった。Aegisの眼から電光が消え失せ、外装が剥がれ崩れだした。兵器は斃れ、破壊された装甲を周囲に撒き散らした。盾の名をもつ戦闘人形は、月光の名を冠した橋で使命を終えた。デスの欠片を呑みこませた、からっぽの表情を横たえる犠牲の少年を残して。

影時間の満月だけが戦場の上に君臨し、怪奇なる光景の一部始終を眺めていた。


「...あっ あう、..はあ、あはっ、」
誕生以来、完膚なきほどに傷つけられたデスは、苦しみに喘ぐ少年の体内で、実体を元の意識体に変換しようとしていた。あまりの不完全さは、自らを補完させるシャドウの本能をも超えていた。そして、その状況が、デスに渇望を生じさせ、封じられた少年の意識に矛先が向けられた。救いを求め、無数の触手でまさぐりあてた先には、普通の人間なら備えているはずの自我が無く、虚ろだった。奇跡的に、少年にはデスが入り込む許容があった。デスは苦しみを強いられる不完全な実体を脱ぎ捨て、少年の無意識に鋭く自らの思念体を接触させた。
「あ"っ! ...ッ、 あー!...やぁあーっ、」
心を閉ざす抵抗の術など無い。子供の柔らかな精神の殻は、ついにアルカナの化身に犯され始めた。感情を知らず、いまだかつて何の刺激も受けた事の無かった白痴の魂が、非情なる“死”と鮮烈な闇に冒涜されていく。瑕疵ひとつ無き空虚を守る薄い膜が、焦燥するデスの凶状、その先端に突き破られた。
「ぎゃあああっ!! あっひっ... あ"ーっ!!」 狂える関節人形のように身体が反り返った。少年の精神の“抜け殻”に僅かに残る“本能”。それはデスの侵食を受け入れた瞬間、破瓜の血にも似た“苦痛”の色を流した。デスはその真紅の意識を浴びた。”死”は常に苦痛を見つめている。“苦しみ”は死にとって馴染み良い感情だった。初めて他者の”意志”に侵入された少年の、心と肉体が感受した苦痛は、痙攣する処女のごとくデスを締め付け、鮮血のごとく熱く心地よく“死”を慰めた。誕生したばかりで砕かれたデスにしても、生命との交わりなどこの少年が最初の相手だ。この生々しい記憶の強烈さは、後々もデスの素体に唯一の愛欲や色情の対象として“彼”が刻まれた程だった。生殖や交歓など理屈からして知るはずも無い”死の具現”は、無垢なる魂を占領し犯し尽くす究極の悦びにうち震え、陶然と雄叫んだ。少年の心いっぱいに、デスの享楽に狂う叫びが響き渡った。
「ッ!...あはぁ、 ハァ、 ぅあっ... ン、くうぅ、」
性感の波が押し寄せ、暗礁に乗り上げ晒された生贄に、死の種がばら蒔かれ無情に沁み込んでいく。表情無き砂に赤い凍り水が染込むように。真白い雪がドス黒い無数の刃に突き刺されるように。剥き出しの精神に死と悦楽が火の霰雨と化して降り注ぐ。額が割れて快楽が光と化し天にまで届きそうなほどの淫蕩だ。デスの猛攻に支配された少年の肢体は宙に操られ、青い淫らさを描いて揺れていた。潜り込み続けるデスによる精神の汚染が進むにつれ、開いた唇から泡の筋が垂れ落ちていく。ただただ呆然と虚空に漂う瞳は脳が受ける強い痺れに白く引き攣れ、透明なしずくを零した。「っひぃ、っひあ! ..ひんっ ひぃい"ッ 」 とうとうデスは淫獄に引きずり落とした相手の領域全てを侵犯した。その証に少年の奥底を灼熱の欲動に憑かれた激しさで衝き揺さぶった。途端に噴出した乱虐な火焔に心臓を炙られるまま、幼い正装に包まれた身体が波打ちくねった。少年は中心を襲う律動に叫び、無慈悲なアスファルトに爪を立て、狂おしく掻き毟った。
「い"っぎ.. ひゃああーっ! ..っき、きゃああーッ!!」

底知れぬ存在に交合されるさなかに与え合う恐怖と抱擁の鮮烈さ。意識と無意識が深淵の底で絡み合い、自らを庇う手立ても無く強大な存在に犯されゆく――それが、北川彰の人生に降りかかった“自覚”の初体験だった。

引きずり出された嬌声を最後に、荒れ狂う熱の嵐は途絶え、鎮まった。

「ぁ、 ...かはっ、」 少年は小さくむせ、開いたままの唇からトロリとシャドウの残滓と体液とをこぼした。
浮き上がる感覚が喪われ、重力が大気が彼を覆う。吹かれちぎれた意識がデスの沈静と共に集められ、自我の形を成してゆく。何も無かった精神領域を独り占めたシャドウ――傷ついたアルカナは、彼の内側で本来の姿に還りつつあった。デスを召喚した世界は、厳しい拒絶によってその誕生を打ちのめした。その仕打ちに対する敵意は、いつ解放されるかも定かではない場所に封じられ、選択の余地無く眠りにつくことを強いられることになった。隔絶し秘された温もりは、デスを檻のように囲み監禁した。だが彼には、この束縛を破る力は残されてはいなかった。冷酷な外界から隠された環境を得たアルカナは、永い刻を繭にくるまれて眠る蟲のように丸くなり、その歪に欠けた存在を縮こめた。

この時“大いなる死の破片”は、一人の人間、魂無き肉に過ぎなかった者を、等価の存在――“大いなる生の欠片”に変容させた。微細な星間物質から始まった大宇宙、そして意識が創り上げた小宇宙。その境界に生まれ宿命をたどる旅人は、始まりに出逢った純潔の魂を道連れに選び、その内に宿ったのだった。

鼓動が途絶えていたに等しい彰の手足が、身体が...ひくりと動いた。
色あせた灰色の瞳に蒼い光芒が生じた。
道路に倒れていた彼は、デスが潜む仮宿の心で空を視た。

いま手に入れたばかりの知性の萌芽を通して、奮えながら感覚を噛みしめ、世界の夜を感じた。

「 お.. お つき、さま..」

自分を隙間無く照らす巨大な月光に、彰は手を差し伸べた。
他に星々の視えぬ夜空には、それだけが彼に眼差しを注ぐ存在だった。

応えの無い天体に、彼は泣き濡れた顔で微笑んだ。
力が途切れ、腕を地面に投げ出した子供は、意識が眠りに落ちるのを感じ、うっすらと瞼を閉じた。

冥闇に閉ざされた海の底で、怒り狂える暗黒がただ独り...唸っている。――




かがやく星が二つ、光をまき散らして天から消えあとに茫漠たる光の雲を残した。

世界の命運に残された可能性を知る存在が翅を震わせて燐粉の跡を引き、飛び去った。


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