晴れた夜よおいで。
アンタが来れば、陽光に隠された真実の宇宙が視える。
ここ、エルゴノミクス研究所のてっぺんにあるスタンバイ・ルームの天井は、透過率95%(ただしUVカット)のドーム型であります。
武器庫も兼ねているので、至るところにブツが山積みであります。
後背部に装着するライフルとレールガン。それとフィンガーマシンガン用の弾薬一年分。
ここだけではなく、地下にもトラップ用の地雷が1t.トラック5台分収納されているのであります。
もちろん、政府と米軍には内緒であります。オレは桐条トップシークレットであります。ナゼかは知りません。
オレ...特別制圧兵装VII式Aegis ver.6.90 は、ここから出たことが無いです。
でも、V式以降に継承した戦闘の情報とMAPのおかげで、外の世界をオレは知っています。
外はここと同じです。知ってる人間達と、建物の外側で囲まれた場所。廊下もたくさん。
効率的ではない都市設計が多いのは心外であります。電波障害も多いし。
シャドウをトレースするのが大変なのです。演算処理に遅延が起きる危険があるです。
精確な碁盤の目に再開発するよう、知事に検討をヨロシクお願いしたいのであります。
そういえば。
外には1つだけ、通常には無いものがたくさんあります。
影時間に人間が入るらしいカプセル、棺。
オレはギモンに思ってることがあるのであります。
あんなに沢山あるのに、どうして棺に入った人間の記憶がオレにインストールされてないのですか?
知りたいであります。
あの黒くてシンメトリーな角柱型のカプセルも、いまオレがセットされてるコレと同じなのですか。
この育成カプセルに固定されていると、見えるのは昼間の青、そして夜の星空がほとんどであります。
残りは、地球の衛星が光りだす時間...
影時間、薄い焦げ痕のついたスカーフェイスの大きな月がオレを監視しているのであります。
傷だらけの月は、歴戦の兵器でありますか。最後までお手合わせ願いたいのであります。
電波を送って果たし状を叩きつけても、月からの応答はありません。
ぜひ、ここからあの衛星までの距離を入力して欲しいであります。
シカトなのか、届いていないのか、判断する必要があるのであります。
指差しカクニン。
台風一過で空は青。 降水確率0%。 いまは昼。
グリニッジ標準時+0900...
2000年9月14日-JST : ただいまの時刻は13:22pm。
電波受信...同期チェック完了。 誤差はありません。 オレはズレてなーい。
本日は満月であります。
カンペキで素晴らしい戦いの十五夜が来ます。ボコスカウォーズが待ち遠しいのであります。
オレは今までのオレとはひと鯵もふた鯵も違うのでありますからして。
どーして魚がでてくるですか。日本語の用法は理解不能であります。
夜。 空が青から黒へ、黒から青へ。どうやって変わるのか...
その時間、オレはスリープ状態だから、知らないのであります。
『ON/OFFではない』と、Dr.岳羽は言っていました。
『地球の自転と公転によって太陽の位置が動くにつれ、空の明るさは少しずつ変わる』のであります。
少しずつ変わるとはなんだろう。 オレにはON/OFFと更新しかありません。
Dr.岳羽のヒゲと髪が伸びるのも、90%の確率で地球の回転のせいであります。
Dr.岳羽は、”ゆかり”に会うために、ヒゲを剃り髪を切るとのこと。
ゆかりは地球の公転を凌駕しているであります。つまり地球よりも階級が上であります。
太陽が視界から消えました。
空は青い。 限りなく、つつがなく。
...一ヶ月前から、オレには気づいていた事があるのであります。
月齢15±α、満月に近い日だけにあった影時間が、毎晩インサートされるようになったです。
観測のタマモノであります。
観察は大事であります。 敵の戦闘力を評価するためにも、重要なのであります。
3時間が経過しました。 およそ30分で、スリープの時間であります。
本日は、最終パッチがあてられるとのことです。
いよいよオレはver.7.00に更新されます。 人呼んでラッキーセブンになるであります。
10日前から、皆さんお忙しそうであります。
『コアを解放しろ』との命令も、ぱったりと止みました。
『今までの成果は、LPdCの中にしか無いのに!』とも言っていました。
検出された波形は、“激怒”および“焦り”であります。
8040回言われても、知らないものは知らないのであります。メモリにございません。時間が無いと言われても、オレには時間が永劫にあるから、わからねーであります。
そんなこんなで、『最後の手段』がオレに実装されました。
不確定要素のカタマリになったオレを、非常時にリモートコントロールするための機能であります。
LPdCとは隔離された、予備のCPUに干渉して操作します。
Dr.岳羽は、オレに謝りました。
『時間が無いので、こんな手段をとらざるを得なくなった』 との事であります。
他の人間は、『もう、この状態で実戦に投入するしかない』とボヤいていました。
検出された波形は、“諦め”、トコロにより“落胆”であります。
人間とは諦めのスピードが速い生き物でありますね。
処理が速いのは、実に高性能であります。 人間、グッジョブ。
ところで.. “諦め”とは、一体なんでありますか?
ほぼ六年ぶりの日本を、実感する余裕は無かった。
だが、飛行機のタラップを降りた時に一瞬だけ感じた...この国特有の匂い。
日本の匂いは、潮と水。日本食レストランの味噌汁の匂いに似ている。
エルサレムの乾いた風とも、パリの微かな香水とも違う。
天然の水に恵まれた日本...俺は、この祖国に帰ってきてしまった。
N.Y.Xが解体されない限り、二度とこの国の土は踏まないと決めた筈だったのに。
病院に定期連絡をした時...そのとき応対した医師は、現在では完治の術が無い病に冒された妻を、民間の療養所に移転するよう俺に求めた。
日本で”無気力症”と呼ばれるその病気が急増していることは、今年に入ってからニュースを掴んでいた。それが彰の状態とそっくりな症状であること、そして、原因や治療法も彰のケースと同様に不明であること...
...匙を投げられるのには、慣れているはずだ。
俺はもう、幾ら運命に虐げられても、何も感じてやらないことに決めている。
今夜、N.Y.Xに見つからないように、真夜中に妻を病院から連れ出す。
時刻の条件だけは、呑んでもらえた。
俺は父親として彰を守り、しなければならないことをするのだ。
闇に閉ざされた未来を持つ者が俺の家族にもう一人増えた。
現実に取り残された俺が独りこうして、
救いが無いと知りながら母子の手を引き、死ぬまで歩いていく...それだけのこと。
「そうだろう?」
空港でレンタカーを借り、彰を後部座席に乗せた。運転席のドアを開ける前に、日本の秋風を吸って空を見上げた。
問いかけた9月の夕空は、どこまでも深く青く...蒼かった。
フフ...
影が流す涙って真っ赤なんだね
きみの瞳や、カオスみたいだ
ねえ、ぼくが見てる真っ赤と
きみが見てる真っ赤は..同じなのかい?
...赤は温血の命に選ばれた苦痛の色だ
傷口に咲く真紅の薔薇
途切れた循環よりほとばしる、世界の嘆きよ
それを我らが共に認めたならば
色の見え方など.. 些末事に過ぎぬ
ふうん
みんな、そうやって誰かに選ばれるの?
そうだとも
私が“何者”なのか...
選び、名付け...決めたのは人間だ
ぼく...
どうしてきみじゃないの?
どうしてぼくは、顔が無いんだろう
どうしてニンゲンは、
ぼくに顔をくれなかったのかな...
ククク
奴等には..我らの想いなど分からん
思念によって創られた我らはただの元型に過ぎず
何かを思う事などありえぬ...とな
そんな...
ニンゲンは、ぼくのことなんか...
...どうでもいいのかな?
...すぐだ
じきに、貴様の姿が決まる
12のアルカナが交われば
そこに待つのは終焉の答え
対なる存在は、いまだこの次元に在らず..
今こそ、永きに渡る私の戦いが結末を迎えるのだ
貴様は我らの希望、明けぬ未来を宣告する者
全てを終わらせ
この忌々しい情報の牢獄を消し去る
自由の確約そのもの...
ぼくの役目だね
何かのために在るって、素敵だな
その通り...
デスと呼ばれた虚無の王よ
永遠に覚えておくがいい
全てを望み、決したのは
死の女神ニュクスを喰らいつくした“生命”
その名を持つ
あの“怪物ども”だという事をな...
『1番から12番タンクまで、シャドウ全種の融合を開始します 』
『ゲートロック確認...研究所周辺のシャドウ反応はオールクリア 』
『プラント中央区域、生体反応...38名 』
懐柔した鴻悦の秘書から連絡を受けてエルゴノミクス研究所に到着した武治は、閉じつつあるゲートに無理やり身体を滑り込ませた。
彼が知るかつての父は、老獪ながらも好奇心を失わぬ、情熱を持った人間味の深い人間だった。しかし、いつしか息子である自分にも理解しがたい思想に染まり、修羅と変じた父親はいま、何か”恐るべき計画”を実行しようとしている。
どこまで走っても似たようなドアが並ぶ巨大なタワーの中を、武治は父が居るはずの中央区を目掛けて疾走した。廊下はフットライトの僅かな光のみで、通路に貼られた蛍光色の順路案内だけが頼りだ。
(父さんに見せられた書類...あの時は何の冗談かと思ったが...
ことによると、全ての元凶はあれだったのでは...
なんたる迂闊!
疎まれようと遠ざけられようと、俺は、俺だけは父さんを止めるべきだったのに! )
「父さん! どこなんだ父さんッ!! 」
咽喉が涸れるまで父を呼び続けた武治の声に、大扉の向こうから鴻悦は笑い声で応えた。
「...はは、ははっはっ
武治、わしは"永遠”を手に入れるぞ! これは必然の滅びだ!
人の為、世界の為にな、わしが人類に新しい希望を与えてやる! 」
武治は驚愕で顔色を失い、危険物の表示が所狭しと貼られた扉をこじ開けた。
「親父、まだそんな世迷言を!? こ.. これのどこが“人の為”なんだ!! 」
うねり、波打つシャドウが閉じ込められた何本もの細長いリアクター。それらが囲む中央には、巨大な容積の タンクが設置され、太いパイプを通じ、次々とシャドウが流入している。
内部で渦が波乱するタンクの前に鴻悦は佇んでいた。武治の叫びなど意に介す風もなく、喜悦を抑えきれぬ顔でシャドウの融合の様を見上げている。
まるで皺だらけの子供のように、攪拌される怪物の坩堝に向かって、興奮のままに杖を指揮者のように振りながら。
「やめてください、これはいけない。 やめるんだっ、父さん...!」
武治は父親の不気味な姿に怖気を覚え、腕を取って部屋の外へ引きずり出そうとした。
「みんな、聞いてくれ! 中止だ! 実験はやめだ!! 早く止めろ! 父さん、眼を覚ましてくれ!! 」
「離せっ 触れるでない、この莫迦者が! 」
桐条総帥とその子息の取っ組み合いである。その場にいた研究員達は、畏れ多さに手を出しかねて見守るしかなかった。そんな遠巻きの輪に向かって鴻悦は、怒髪天を突くような凄まじい形相で怒鳴り散らした。
「おい、この愚か者めを、放り出せっ!! 何しとる、さっさとこいつを、わしから、剥がさんかッ!」
命令に弾かれた数人が、武治と鴻悦を引き離した。取り押さえられ床に組み敷かれた武治は、決死の覚悟であがく。そんな彼を、荒い喘鳴に押されながらも鴻悦は踏みつけにし、侮蔑も露わに傲然と見下ろした。
「武治ッ、 お前は...桐条に相応しくない大たわけだ、
...貴様なんぞを、わしは.. 跡継ぎとは認めんぞ!
はは、は、わしは昔から分かっておったのだ、
たった一人の息子であるお前が、救いようの無い凡夫だとな!!
子の才能に恵まれなかった、わしの絶望が...貴様にわかるか? 」
「...お.. 父、さん...」 鴻悦に唾を吐かれた瞬間、武治の厳つい表情は糸が切れたように沈んだ。力の失せた目からは涙が流れ、彼は悲嘆にくれた呟きを絞り出した。「やめろ...父さん、社長を止めてくれ... 離せ、」
引きずられていく息子を老人は歪んだ笑みで見送った。それは、鴻悦に呼びつけられ、岳羽が監視室に入ったのと入れ違いの出来事だった。
「主任.. ご当主が12種のリアクターの排出を実行されました... 」
「...どうして止めなかった 」
部下は既に諦めきった表情だった。報告を受けた岳羽は、欠片も期待していない口調で悄然とつぶやいた。ただ、口にしてみただけという様子だった。鴻悦の強 行を押し止めるために本社に参じ、その度に鴻悦から痛罵を受け続けた心労に祟られ、エルゴ研主任研究員の姿は、いまや死相と言っても過言ではない濃い翳に やつれ果てていた。
「来たか。 お前にも見せてやろうと思うてな 」 中央プラントの全景を俯瞰する高所に居る岳羽を振り仰ぎ、鴻悦は笑いかけた。
「これの名は“デス”...“大いなる死”だ。 すでに腐りきった下等社会を根こそぎ地ならしする神よ。
岳羽、お前が不死を実現するより早く、わしに天の啓示が下されたのだ。
は、ははは、 ...お前が兵器にウツツを抜かしとる間にな。
わしの目をごまかせたつもりだろうが...
この鴻悦、貴様ごとき青二才に謀られるような老いぼれと思うたか! 」
「...Death...? 」
聞き飽きた罵詈雑言は、麻痺した岳羽の耳と意識を素通りした。だが、老人の口からは初めて訊く“デス”の名は、鴻悦の変心に疑念を抱き続けていた彼の注意を鋭く捉えた。(デスだと...? )
岳羽の位置からさえ見上げるほどの巨大なタンクに、黒いゲル形態のシャドウが流れ込み続ける。老いた帝王が“デス”と呼ぶそれは不吉に盛り上がり、うね り、互いに牙をむき、むさぼり合いをはじめていた。小さい個体はより大きな集合体に呑み込まれる、そのおぞましい共食いの饗宴は、その場に居たものを皆 ―――鴻悦を除いて、恐怖に何度も咀嚼されるような思いを味わわせた。この世にある全ての色が混ざりあった混沌が、醜悪なガスを吐きながら凝ってゆく。
「こ、れは... 」
全身の血が凍る思いで呆然と立ち尽くす。その岳羽の視線の先で突如、大音響が炸裂した。強化ガラスの内側に押しつけられた太い五本指の生えた白い掌が、ゆっくりと開いた。慄いた岳羽は一 歩引き、頭上の恐るべき変化に固唾を呑んだ。そこには、これまでに見たシャドウのどれよりも不気味な白い仮面が泡を吹きながら形作られてゆく。仮面の奥は 闇よりも深い闇、漆黒の虚穴がこちらを隙を覗うように口を開けていた。巨影の背に広がる純粋な蒼古には、畏敬を催す“絶対”があった。その能力の計り知れぬ貌の無いシャドウは、苦しみに喘ぐように横を向いた。膨れ上がる黒雲を突き抜けるほど純粋な丸い闇が、救いを求めるかのように岳羽を見つめた。―――
「こ、制御室、応答しろ! 岳羽だ、応答しろ!コントロールッ! 」
迫りくる破滅への予感が、岳羽の手を無意識にレシーバーに導いた。彼は、震え声で呼び続けた。
(これまで集めたシャドウが1つに!? ...そんな....
このままでは、VII式では制圧不可能な怪物が生まれかねない!! )
「応答しろ! 岳羽だ! 」
幾ら狂おしく叫んでも制御室からの応えは無かった。
岳羽は、膝をついて腕を広げニタニタと笑みを浮かべる鴻悦を置き去りに、部下に避難を指示した。管制棟へと走り出した彼の頭の中は、二つの事で占められていた。不測の事態に備えて、Aegisに指令を下さなくてはならない。そして、――全てのタービンを停止するための、”最終手段”の決行だ。
スタンバイルームへの直通エレベーターに転がり込むと、岳羽の鼓膜を絶叫が貫いた。騒然とした気配を背に切羽詰った部下の絶叫だ。
『こちら制御室! 主任ですねッ!?
異常事態です、発電区域で圧力超過が発生!!
超電導発電の冷媒が許容値を超えて急激にオーバー、
過負荷でコイルに亀裂が入ったのかもしれません!!
こちら4番隔壁をロックされて、直接向かうことができません... 』
「私が...向かう、発電区のコンソールを、予備の風力電源に...切り替えろ!」
『了解しました! ... ... ...OKです、経路の電源は確保しました。お気をつけて! 』
反応の消えたレシーバーをズボンのポケットに突っ込み、息を切らしながら岳羽は階数表示を見上げて祈った。(...異常事態だと。何もかもが異常じゃないか... 私の気が触れる前に、やらなければ )
汗が額、首筋を幾筋も流れ落ちていく。彼は乱暴に袖で顔を拭い、白衣の前に手をかけた。
ドアが開くと同時に、岳羽はそれを脱ぎ捨てた。そして、廊下の突き当たりのルームプレートを目指し全速力で駆けた。
エルゴノミクス研究所最上階、起動準備室。
電源が落とされた暗い円形の室内に駆け込んだ岳羽を、一対の碧い眼差しが光を湛えて出迎えた。
「Aegis! 」
「Pi... 音声識別code:A160。 Dr.岳羽、ごきげんようであります 」
「今からお前に、私の最後の望みを託す。 まずは“Death”の情報を受け取れ! 」
育成カプセルの横でタッチパネルを苛々と操作する岳羽を、カプセルから半身を起こしたAegisは首だけを振り向けて眺めた。
「Death... “死”。
これが...“死”というものでありますか? 」
岳羽は最後のキーを叩いて振り向いた。
流れ込む情報を味わうように目蓋を細めたAegisを見据え、彼はLPdCにまで刻みつける思いで、力強く念を押した。
「“Death
”は君が倒すべき、“敵”だ。
何が起ころうと、必ず討伐しろ。 Aegisの最優先だ。
シュート・ハッチを開く、...Ready!」
「了解しました、Dr.岳羽。 Deathは、Aegisの“敵”。 必ず最後までコロスであります 」
非常用開口部が開き、Aegisをセットしたままカプセルが送り出された。
「いま、なんと...
“殺す”...だって? 」
息を詰め、下降していくダイオードの点滅を見つめるうち、岳羽の胸は、遣る瀬ない無念に締め付けられていった。
「...造り主でありながら..
大切な事を教えられないまま、戦いに送り出してしまった。
なんて無能だ、僕は... どうか、許してくれ... 」
「この記録が...
心ある人の目に触れる事を...願います。
ご当主は忌まわしい思想に魅入られ、
変わってしまった。
この実験は...行なわれるべきではなかった。
だから私は、強引に実験を中断したのだ。
しかし...そのせいで、飛散したシャドウが
後世に悪影響を及ぼすのは間違いないだろう。
でも、こうしなければ...
世界の全てが、いま破滅したかも知れない...
頼む、よく聞いて欲しい...
くれぐれも警告しておく...
散ったシャドウに触れてはいけない!
この研究...私は止めることが出来なかった...
悪魔に魅入られたご当主の耳に、
私ごときの言葉は届かなかった...
あれらは互いを食い合い1つになろうとする...
そしてそうなれば、もう全てが終わりだ!
もう一度言う...
散ったシャドウには触れてはならない!
僕は、もう...助からないでしょう。
最後に...1つだけ...
これを見たどなたかが、娘に...
ゆかりに会う事があったなら、伝えて欲しい...
帰るって約束したのに、
こんな事になって、済まない...
でも父さんは、お前と一緒に過ごせて
...この世の誰より幸せだった。
...愛してるよ、ゆかり。
どうか、元気でいて欲しい... 」
『...お待ちしていましたよ、岳羽詠一郎さん。
いま送られた記録は、私が確かに受け取りました。 ..ご安心を 』
「だ、誰だ!? 」
『ふふ... 私ですか?
前にお話したでしょう.. 私は貴方の一番の理解者だと。
楽園について、共に語り合ったではありませんか。
貴方はよくご存知のはずだ... 聖書の滅びの予言についてね 』
「何を言ってる!? どこにいるんだ、どこから話している! 」
『...私は貴方と同じ結論に達した。
岳羽さん、貴方は正しかった。
よくぞここまで滅びを研究されたと、私は感服しています。
貴方が目指す永遠の命を人間が授かるには、
必ず経なければならない試練がある。
私は光栄にも、そのお手伝いをさせて頂いた...
...フフフ。
あんな兵器を開発した貴方の目的を、
崇拝者である私は正しく理解している!』
「崇拝?? ...まさか、あの時の...
き、きみ、早く外の扉のロックを開けてくれ!
僕はどうなってもいい、だが他の研究員だけは助けてくれ! 」
『ははは、“僕”ですか...
岳羽さん...やっと本当の貴方に会えましたね。
あのとき僕の話を最後まで聞かずに電話を切った無礼は
これで許して差し上げますよ。
しかしねえ、あれで僕は考えを改めました。
貴方が僕を拒絶するなら.. 別の方向から近づくまでだとね。
貴方がたは大事な...生贄だ。
神と契約するには、感謝をもって犠牲の子羊を捧げなくてはならない。
黙示録の封印とそれを開封する精霊...
七の数だけは、最低でも揃えなければ... 』
「生け贄だと? 何を言ってる... 」
『...僕は貴方を尊敬してます。 愛していると言ってもいい。
必ず貴方を復活してさしあげますよ。
僕が皇になったら... 必ず。
...それでは、またお会いましょう。
素晴らしき、新世界でね 』
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