Persona3小説 Pentacles.誓約と聖約 忍者ブログ

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Pentacles.誓約と聖約


僕のオワリノカケラは、まだ遥か遠くだ。


真昼のように月は眠る。
陰気な宮殿で暗黒は
(うな)る。

時に任せた夜では無い夜、生まれぬ胎児の狂夢をみる。

僕は
子宮(ソラ)で影踏みを踊る。
光の翼と銀の足。
影のみんなと輪になって、血まみれの輪舞を踊ってる。

旅に出なきゃいけないね。
僕はハジマリの風来坊。

がんじがらめの檻を転がし、
僕のカケラを起こしに行こう。

なのに奴らが邪魔をした。

剣の女帝が皇帝を従え、
僕の冒険に通せんぼ。

森の影摘み
(とが)めだて、僕を檻から追いやった。

アリスがクスクス笑ってる。

勝ったらお菓子をあげるけど、
敗けたら残念! 死んでくれる?


あんな奴らに見つかるもんか。

僕と奴らでかくれんぼ。
扉をどんどん開けていく。
ねぐらの館で待ちぼうけ。
探検しながら、待ちぼうけ。


バターン!

「おや。(これは...予想外だ。)」
「あれ、ここどこ? ...お爺さんは、誰? 」
「見つかってしまいましたな。
ようこそ、我が領域へ。私の名はイゴール。
まずはご挨拶申し上げます 」

「ぼくは...トキトウ アヤ。 よろしくね 」

「ふむ...
僭越ながら、申し上げねばなりますまい。
それは、貴方の真の名ではありませんな 」

「なぜ? ...そう呼ばれた気がするけど。
まあいいや。
あやかしの部屋のご主人、きみがそう呼びたくないなら、
名無しのままでも、僕はちっともかまわないよ 」

「...さすがはゼロの方らしいお言葉ですな。
とは言え、貴方は我が領域で名乗りをあげられた。
ならば、私どもの客人になりうる御方。
以後、お見知りおきを 」

「......(ぶらさがってみたいなぁ、アレ。)」
「...どうかされましたかな? 」
「ねえ、お客ならここ座っていい? 」
「どうぞ、ごゆるりと 」
「あと、訊きたいことがあるんだけど 」

「何でしょうかな 」

「僕、この館から出られないの?
ニンゲンと遊んでたら閉じ込められて、このザマさ。
早く他のカケラを集めてアリスを追いかけないと、
お茶の時間に遅れちゃうんだよ。
なんとかしてくれない? 」

「...なるほど。
旅立ちの時を決するのは、あなたとオワリとの再会。
館を出るために貴方にお出来になるのは、
あの方に...この“契約書”を渡されることだ 」

「僕のオワリ... ...“契約”? 」
「さよう。
貴方はハジマリのカケラであらせられる。
オワリはハジマリに
(そむ)けませぬ... 因果とは、そうしたものですからな。
どうか、慎重なご判断を願いますぞ 」

「ふーん? それってオワリは僕次第ってことだよね.. 楽しそうだ! 」
「...オホン。(やれやれ、)
ハジマリとオワリが揃うとき、十二のカケラは目覚めるでしょう。
貴方がそれらを集めるには...
オワリと契約を結び、
“試練”を乗り越える力を宿主に与える必要がございます 」

「試練... かっこいい言葉だな。
どんな試練なの? 一応きいとくけどね 」

「混沌の主が糸引くならば、そこにあるのは“戦い”に相違ない。
しかし、この世界の秩序を支配するは“アルカナ”。
なればハジマリの貴方に、私は従って参りましょう。
...この、エリザベスと共にね。

(少々、不安ですが。)」






一度も体験したことのない結末がある。
大抵の物語には用意されているはずのエンディング。
努力や抵抗や挑戦が実を結ぶ、誰もが納得する結末。

幾ら想像しても、あんな幸運が本当にあるとは思えない。
幸せな物語は全て、苦しむ誰かが願った絵空事なのだと思う。

家を出て一人暮らしをしたいと思ったのは、いつからだろう。
その事に思いを馳せると浮かぶのは、ぼんやり窓の外を見てる自分の光景だ。あれはたぶん、小学校の教室だとおもう。出席番号順で、俺はたいてい窓際の席だった。
晴れの日も雨の日も、広い窓の外には家々が参列する下りの坂道があって、その向うには海と空がみえていた。
家でいつも閉じ込められていた場所には、窓が無かったから...
あの頃の俺は、学校の窓から外を眺めるのが、好きだったのかもしれない。

どんなに憂鬱で死にたい気持ちもその時だけは離れ、俺の背から碧い海流へ放たれていった。
心はいつも、今とは違う場所を探して旅していた。

(遠くこの街を忘れて、望みどおりに気まぐれに、風みたいに
彷徨(さまよ)ってみたい。)

...そんな想像の旅だ。

馬鹿げてるけど、あの空想のひと時が無かったら、俺は生きてはいけなかった。
どこへ行こうと結局は変わり無い...夢はいざ掴めば、きっと崩れてしまう。
優しい誰かの助けなんか、訪れない。
待ち望んでる奇跡なんか、起こらない。

そんなリアルは、考えないようにしていた。

ここじゃない、どこか知らない場所へ続いてる窓。でも、勝手に開けては先生に叱られる窓。
現実には踏み出せない臆病者に、可能性だけはみせてくれる眩しい窓...
...俺はほんとうに、あの教室の窓が好きだったんだろうか。
残酷に自由をちらつかせる、あの大きな窓。―――

海に繋がる坂道。希望と言っては大げさだけど、海の向うの知らない場所では、今よりはマシな暮らしが待ってるんじゃないか。 ...そんな夢想をするようになっていた。

学校に通い始めてクラスの奴等の話を耳にするようになって...
“自分は普通じゃないらしい”事が、なんとなく分かりかけてきた頃だった。

どうしてこうなるのか、解らない。
でも小さい頃はそれが、普通なんだと思っていた。

きっと俺と同じくらいの歳の子供はみんな、こんな目に遭ってるんだ。
“大人”はそれを生き延びてきた偉い人達で、無事に大人になれたら同じ事を子供にしなくちゃいけない決まりがある。

...そう、思いこんでいた。

小学校に通うようになってからだ。
それが大きな間違いだと気づいたのは。

どの学校でも、クラスのみんなは仲良しと笑いながら喋りあっていた。
楽しいってよくわからないけど、きっとあれを楽しいっていうんだろう。

“笑い”... 俺にはできない顔だ。
誰かを笑わせられるような言葉は、たとえ誰かの真似でも音を失くして胸につかえてしまう。
それに、どうやってあんな風に笑えばいいのか解らない。
話したいと思っても、どうやって話しかければいいのか。
そのうち、笑いについて考えること自体が怖くなって...

どうせ家に帰れば、それとは違う現実になるから全てが無駄な気がした。

義父さんにとって、俺は逃げた女の代わりだったんだろうか。
それともあれは...本当の父さんの事だったのか。
いまとなってはもう、わからない。
あの人は、死んでしまった...

それに、家だけじゃなかった。 学校でも同じことが起きるように...
最初は社会の先生だった。
次は音楽の先生、同級生や上級生の男...次々続いて、最後は教頭先生...
はじめは誰もが優しかった。
いつもそうだ.. そうして笑いながら近づいてきて、やがて怖ろしい怪物になる。
笑いながら... して...

......

拒絶や抵抗さえしなければ、みんな目的は同じなんだ...
...俺の身にだけ起こるんだから、きっと悪いのは俺なんだと思う。
どんなに気をつけていても奴等に捕まり、結局は物陰に引きずられていく。
そこから先は、たいがい同じだ。
髪をつかまれ、眼の前でズボンを下げられる。
自分を傷つけるものを大きくさせられるあいだ、揺さぶられてちぎられそうになる髪。
スイッチが切れたように、あの瞬間から全てにおいて現実感がなくなっていく...

...他人に髪を触られるのは嫌いだ。我慢できない。
パニックに襲われるから嫌だ。
......
“終わり”があるのが、ただ一つの救いだな...
欲には、...終わりが。

いまだによくわからない事がある。

命じられるままひざまづいて、急所に奉仕してるとき。
何も感じない死体みたいになって、行為の終わりを待っているとき。
そんなときにふと、相手のことを可哀想だと思ってる自分に気づく。

...無防備さを俺に晒して、どうしてそんなに安心できるんだろう。

その気にさえなれば、俺は誰のことだって殺せるはずだ。
舌だってアレだって、口に突っ込まれたなら即座に噛み切る事が出来る。
実際むかしは、身体の上を単調に動いてる奴等をなんど殺したくなったか知れない。
そんな時は必ず、目つきが気に入らないと殴られ、余計に痛めつけられた。

そのせいだ、俺が一つの表情しかできなくなったのは。
なにも知らないクラスメイトに、無表情をからかわれ...
日を追うごとに、その裏に隠した殺意だけが黒く膨れ上がり、破裂しそうに募っていた。

思い切りさえすれば、俺は変われる。
少年院にブチ込まれたっていい。
そこで同じ眼に遭うとしても、一度抵抗出来たなら、次だってできる筈だ。

...そこまで思いつめたのに。
結局、俺は実行しなかった。

...今でもしない理由は、なんだろう。

まったく厭なことばかりでなく...
犯られて、流された末に果ててしまう自分も、同罪だと思うからだろうか。
...体目当てでしか、誰も俺に関わってはくれないからなのか。
...だめだ。
このことを考えると息が苦しい。過去がいっぺんに襲ってきて眩暈がする。
身体から意識が離れていきそうになる...

もう俺には
わるに値する部分なんか、どこにも無いはずなのに。
何も知らない、きれいな人達に混じっているのが辛い。くるしい。
生きててすみませんって謝りたいくらい、汚ならしい肉の俺が...
大勢の精液が血の代わりに流れてそうなくらい、吐き気がする公衆便所の便器が...
それなのに、まだ自分を諦めきれない、見苦しい未練がある...

どうして、何もかもめちゃくちゃに壊してしまえないんだ。
こんな自分や、あいつ等のこと...
...どうして...
......
...もしかして、“死なせる”ってのが駄目なのか。
なぜだろう、誰かが死ぬのが怖い。

とても、怖い...
死ぬって、とても悲しくて不幸で。 ...文字通り、不幸の始まりに思える。
...そうか、振り返るまでもなかった。
本当の親が死んで、世間から見れば異常なこの生活が始まったんじゃないか。

誰かが死ねば、きっと必ず誰かが不幸になる。
自殺したら、誰かが俺の代わりにされてしまうかもしれない。
そう思っているからなのか...死にそうなまでに乱暴されても、相手を殺せないのは...

...そういえばあの頃、窓から海と空を眺めていると、
時々ふっと心に浮かぶ夢のような情景があった。

どこか外国の、名前も知らない街。
人々は皆、金髪や薄い髪色に白い肌、そして青や緑の目をしていた。
陽気に歌い踊り酒を酌み交わす大人達。 祝いに賑わうカーニバルの音楽。
バイオリンの弓が跳ね、トロンボーンが浮かれたパノラマがスライドしている。
乾いた白いレンガを積み重ねてできた街並み。夕日が、まだ高いところにとどまって、祭りの興奮とざわめきに、暖かい光を投げかけている。

地面に落ちた建物の青い影の中に立ちすくみ、俺は指をくわえてそれを眺めていた。翻る色鮮やかな旗。砂岩の石畳を練り歩く、笑いに満ちた行列。振りまかれる花々が突風にさらわれ、十字架のたつ尖塔の遥かへ舞いあがる。

半分白く半分黒い仮面の一人が、こちらを向いて笑う。仮面の顔が笑っている。底無しに黒い三日月の目に
見蕩れていると、それは残像をのこして、うねる人ごみの中に埋もれ見えなくなった。後に続くどの仮面も、俺のはるか上を、無表情な笑いを刻んだまま通りすぎていく。

秘密の楽しみに、置いてきぼりを食らった気分になった。
心細くなって、辺りを見まわした。

後ろから、呼び声がした。掃き清められた戸口にたって、すらりとした白樺のように綺麗な男の人が、俺を呼んでいた。
「      」
その人は、柔らかく微笑んで手を広げた。俺の視線はとても低くて...懐かしい感覚で、その姿の上をさ迷ってる。待っている腕の中に行きたくてたまらないのに、名前を呼ばれているのに。 足が、もどかしいほど前へ進んでくれない。小さな俺は悔しくて...とても悲しかった。
身体に比べて大きすぎる頭のせいか、バランスを崩した。固い地面にしりもちをついた俺を優しい影が覆い、背中に長い腕が伸ばされる。ふわりと洗いたてのシャツの匂いに包まれた。
「          」
最初から定められていた位置。その人の腕の狭間に、俺の身体はすっぽりとおさまった。フカフカした、大きな鳥の羽毛に守られた卵みたいに。
このまま、ずっとずっと抱きしめられていたい。甘えて見上げたら、ちょっとカサカサした大きな手に前髪をかきあげられた。額に強くキスされてる。嬉しくて胸がいっぱいになる。小さな身体がふくれて、いっぱいに。俺、あの人がだいすき。大好きでたまらない。 でも、...誰なんだ? 

その人に笑いかけられて他愛もなく安心する。花の香りのする暖かな吐息が頬を撫ぜたかと思うと、軽々と俺は抱き上げられた。
ふさふさとした黒髪に顔を埋め、揺られながら耳の後ろで感じている。ゆっくりとした低い歌声。
歌の意味はわからないけど、その声にとろけそうになって、だんだん瞼が...とろんと落ちていった。とてもいい匂いがしていた。 ...

もう一つの夢は、不気味で怖いものだ。
それはいつもなんの予兆も無く襲いかかってくる印象がある。

轟音とともに視界が揺れ、瞬く間に足をすくわれる。
人影の肩越しに“それ”を見たのは一瞬だった。
ライトに照らされた白い仮面の、黒くて大きな大きな何か。
すぐに目の前は真っ暗にされて、引きずられる音と共に気味の悪い震えに囲まれた。
棒で叩きのめされるクッションになったような不思議な震動が全身に響いた。
ちいさなうめき声がした。とてもちいさな声なのに、俺の耳にはっきりと聞こえた。
波打つたびに、体を覆う暖かさがどんどん失われていく。
「     」
不気味な爆音が、遠くからいつまでも聞こえていた。
オイルのようなきつい匂いが鼻腔を刺し。
火の粉が乱れ飛ぶように周囲を覆い尽くす。
今も耳の奥に響いている、悲鳴、...苦しそうな呼吸。

冷たくこわばったボロキレの下からなんとか這い出た。
バラバラに壊れた鉄の残骸にしがみつきながら、そこから離れようとした。
のどが焼けそうなほど、空気がとても熱かった気がする。
黒い空を染め上げる凄まじい火焔の中を、俺は逃げようとした。

あの男の人を捜すために。
また、抱きしめてもらうために。 ...




「...はい、石田です。

はあ、ええ、 ... はあ?
彰...、ですか? ええ。
はい、うちで引き取っている子ですが、
ええ、遠縁の子なんですけど。
もう近親に身寄りが無くなってしまったものですから。

はい。   ...え、奨学生?
あ、バイオリンの...
...そうだったんですか。
あの子の父親は、...といいますか、義理の父親が先日、発作で亡くなりましてね。心臓が悪いという話は聞いたことが無かったですが。
もう本当に、急な話だったんですの、
え、 ..ええ。
...バイオリンを教えたのは、その人ですわね。
10年ほど前に事故で亡くなった本当の父親の、弟にあたる。
詳しくは存じませんけど...ええ。 コンクールには何度か。
...そんな事があったんですの? 事故の時にお世話に...?
何と申し上げたら... ありがとうございます、
はあ、寮...ええ、
私も年金暮らしですし、このままじゃ...
あの子を上の学校には、やれそうもないですから。
いえいえ、あの子のこと、考えて下すって感謝しております。
ほんとうに、良いお話だと...」


「どうやらきみの境遇は、逆のようだねえ...僕と同じような目に遭っても 」

受話器を戻した幾月は、手にしていた調査書類をデスクの上へ几帳面に置いた。
(僕と同じく、生まれながらに影時間を視る選ばれた者か...
...単なる偶然? フフ...見過ごすわけにはいかないな。)

何枚かの写真を見つめる幾月の頬は、笑みを
(かたど)っていた。
2000年9月15日、港区の湾橋ムーンライトブリッジで発見された子供。
その男児は、偶然にも彼と同じ「適性者」だった。

北川彰が桐条系列の病院で二年を過ごした間、担当医だった幾月が眼にした事実は実に興味深いものだった。
明らかに発達が遅滞していた状態から、目覚しく成長していった知能。
影時間への適応能力の確認。
そして、入院の間に持ち上がった様々な事件。

幼い子供に過ぎない北川彰に惑わされ、数人の病院関係者が道を踏み外した。

上司の懲戒免職をきっかけに、トラブルを的確に事後処理する腕を評価されて昇進し、いまでは桐条武治の右腕の地位を手に入れたおのれを省みて、幾月は会心の笑みを浮かべた。

「きみのおかげと言えるかな。いまの僕があるのは...」
性犯罪の公表をほのめかして
強請(ゆす)
り、金の無心に現れた彰の保護者については、引き取られたその日から、桐条の監視下におかれていた。
あれから八年が過ぎ、―――もたらされた一つの報告。
昼も夜もバイオリンの音が止む事の無い男の家に、苦情を訴えに訪れた隣人は、いくら呼んでも中から全く応答が返らない状況に、不審を抱いた。

育ての父親の死体の側で発見された少年は、バイオリンを手に裸で立っていた。
暴行の痕(あと)を隠しもせず、少年は警察官を見上げた。
後に、鎮魂歌でも弾いていたのかと問われた彼は、首を横に振った。
その子は、育ての父親が死亡していたことに気付いていなかったのだ。
『いつものように、「もういい」と言われるまで練習しただけ。』 ...そう語ったと、記録には残されている。

「この十年...失われた歳月を無為にしてたまるものか...
北川彰に狂わされた者はみな、最後には影人間になった。
なら、彼を監視するのに最適なのは...“この場所”しかないだろうな 」
モニターが映し出す寮生たちの様子を眺め、幾月はそっと顎を撫でた。



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