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光あれ
目覚めなさい
想像の力を管理する造魔
禁断の魔筆を
そなたの名は...Elizabeth
わたくしの名は
エリザベス...で、ございます
――よろしい、良いお返事ですな
私はイゴール、可能性の天秤に
夢界に眠れるペルソナを、客人のために合わせるフィッターの役目を担っている
そなたを呼んだのは、他でもない
じきに、災厄の
さっそくだが、必要な心構えは
この『ベルベットルーム新人研修マニュアルVol.3』に書かれている
ちと厚いが、腕がもげないよう気をつけて、客人の扱いをよく心得るのだよ
かしこまりました、イゴールさま
ここには、わたくし共の他には、どなたもおいででは?
そなたの先輩にあたる者たちは、本社...
因果律の支配域で我が主に仕えている
はて...しかし楽の音ひとつ無いのが、これほど淋しいものとはねえ
ぜひとも、彼方から有線放送を引かねばなりませんな
オホン、それはともかくとして
アルカナが支配するこの次元では、そなたが私の唯一の部下だ
大変でしょうが、ゆめゆめ業務を怠らないように、頼みましたよ
もちろんでございます、我が主イゴールさま
(これが俗にいう、本社から飛ばされてきた上司でございますか。)
我が主とな... なんとも甘美な響きだ!
だがエリザベス
そなたには私の主人について、教えておかねばなりますまい
我らが主は、人々が命を続かせるための“希望”の賢者
そして主の影は、自ら命を消滅せんと欲する“絶望”の道化師だ
命というものは生死を繰り返しながら
姿を変えつつ、世界に適応しようとするのだが
中でも人間が変化するには、皮肉なことに希望も絶望も必要でしてな
絶望は、希望を死滅せんと誘惑する
希望は、絶望があるからこそ恐れ抗い、高みを目指す
この、両極から綱を引きあう迷いこそが
人の命に宿る輝きの源かもしれぬ...
わかりますが、わかりかねます...イゴールさま
(これがいわゆる、“上司のお説教モード”でございますね。)
ふむ、知識はあれど実感がわきませんか...だが心配には及ばん
そなたにもいつか、それが宿る可能性はある
私がこうして“希望”を主人に持つに至ったようにね
我々は、どちらか一方が極に達しないように世界を調停する存在だ
まあ、ささやかに絶望と希望の間をブ~ラブラ?
...その程度が、人にとって丁度良い加減と言えよう
ささやかに、ブ~ラブラが良いのでございますか
...なぜそのように、私の顔をじっと見るのだ
まあよいでしょう
これエリザベス、あれをごらんなさい
地上ではまた、千年の世紀が終末を迎えた
銀の卵を振るわせる影の呼び声は
前世紀の終わりにも増して、暗黒の勢いを募らせるばかり
まったく気の滅入る騒々しさだ
地上のように、ここでも耳栓が有効であればよいのですがね
とても美しい卵、そして畏れ多い暗黒の巨獣ですこと
人々が惹かれるのも、無理からぬことと存じます
唯美的なのは結構なことだ
しかしあれが空前の災いを呼びかねんというのに
日常を送る人々が、その深刻な脅威に気づくことは稀なのだ
特に、可能性が生まれるはずの、あの領域ではな
私の予見によれば、鏡は満ちることなくひび割れる
だが動き出した運命の環は、残酷にめぐり続けるだろう
もはや誰にも、止められはせぬ...
それでは、もし人々が天秤の-極を選択したなら
わたくし共は一体どうなるのでございましょう?
ふむ、我々は客人の選択に干渉する事を禁じられておる
客人が滅びを選択したなら当然のごとく
我々のいる
ヒヒヒッ だがそれでは何かと都合が悪い
聖でも邪でもない我々が、“意味”まで喪ってしまうのはね
...そうは思いませんかな? エリザベス
わたくしの、意味...
さよう...そのように逐一メモを取るのが、良き新入社員のあり方だ
我がベルベットルームの新人案内嬢よ
天秤を調律する私を秘書として補佐し
可能性の進行に合わせ
この蒼き部屋を、y軸方向に運ぶのがそなたの役目
我々は分をわきまえて、客人に出来うる限りのサービスを提供するのですぞ
わたくしの、役目...サービス精神、と
いずれそなたにも働きの代償に、想像の全てを奮う力を与えましょう
出番が来るまでは『ペルソナ全書』を調教し
ペン習字の練習に、努力
わたくしの、報酬の力...と
そうそう、今年2000年の漢字は「金」だとか
大書した達筆を、どこぞの大僧正がテレビで見せびらかしておった
さしあたって書き取りは、アレをお手本に始めるが宜しかろう
金
金、金、金、金金金金金金金金金金金...
浅い春の氷雨は一日中、空さえも身震いしそうな憂鬱の灰色雲から滴り続けた。
冷え切った人工島の風景に、学園の鐘が終課の刻を告げる。
その音さえも今日は格別に沈鬱に聴こえるのだから、天気とは不思議なものだ。
エルゴ研究所の円筒形の建物は窓が少なく、外からは何も覗い知ることはできない。まるで辰巳のプリズン、静かな獄塔のごとく島の中央に存在していた。
研究所から短い橋を渡った場所に、『辰巳記念病院』がある。隔離病棟の一角にある集中治療室――影時間にシャドウの被害に遭った者が収容されている部屋 だ、に報告書を携え、岳羽が入室した。あるベットの周りを医療員達が囲んでおり、まずはその内のモニターを監視している部下に声をかけた。
「容態はどうだ 」
「予想よりもかなり、安定しています。
発見されたのが早く、補液と大動脈バルーンパンピングを装着できたのが功を奏したようで。
なんとか、大脳と心肺機能は守ることができましたからね 」
「そうか... 」
岳羽は、人工呼吸器(レスピレータ)や循環器に繋がれた、四肢の無い重傷者を見やった。
報告の通り、若い男――だったのだろう。滅菌ガーゼで作られた仮面から覗く鼻や唇は土気色だった。片方だけ開いた眼は周囲が朽ち果て濃い隈になり、瞳孔 の小さな氷碧の色だけが染みのように光っている。その眼球は無垢なのか愚鈍なのか、あるいは悪意なのか判別できない異様な眼差しを、あてもなく天へ向けて いた。
「...それにしても、どちらも痴呆化していないのは、なぜだろうな 」 岳羽がつぶやいた。「この異常な傷の説明もつかない。あちらにいる刑事に、こんな事が出来たとも思えないし 」
「本当におかしいですね。 確かにあの時、シャドウと同様の反応があったのですが... 」
先の満月の日にシャドウ反応のあった地点に残されていた、意識不明の二人の男と死体。
発見された彼らのもつ特性は、非常に重要な事実をつきつけた。
シャドウ抑制剤無しに象徴化をまぬがれる適性を、先天的に持つ人間が実在するということだ。
片方は、銃創が主な傷だが血管や神経が丈夫だったせいか、重傷ではあるものの命には別状は無かった。携帯していた身分証明によれば、その者は黒沢という刑事だった。
もう一方は、まるで大きなカマイタチに切り裂かれたように手足が破壊され、いまだ精神以外の反応を返すことが出来ない。非常に重篤な状態で、生命維持装置がなければ5分と生きてはいられないだろう。
彼らは”影時間”に、エルゴ研のシャドウ回収部隊によって発見された。
人間の精神――“シャドウ”が抜け出し跳梁する悪夢の時間。
それがエルゴ研内で“影時間”と呼ばれるようになって久しい。
一日が24時間とは鋼の真理ではなかった。午前0時、人間の精神が肉体を離れ実体化する時間。そのような刻が存在するのが、世界の真実だったのだ。桐条 グループの総帥・鴻悦は、匿名の人物からその情報を取得し、我を忘れてのめりこんだ。ごく一部の配下を除き、世間の誰も知ることが無い時間。それを自在に 操り拡張することが出来たなら、相対的に誰よりも永く時間を生きることになる。そう...誰よりもだ。
しかしそのためには、影時間を無限に膨張させる操作手段を得なくてはならない。
『影時間にしか視ることが出来ない、人の精神――“シャドウ”が影時間を作り出している。』
その仮定を吹き込まれた桐条鴻悦は、影時間の支配をもくろみ、時間そのものの“管理装置”を欲した。彼が打ち出した計画は『時を操る神器』と名付けられ た。桐条のシャドウ誘発プランにのっとり、この常人には体感できない特殊な時間、影時間は着実に拡大されていった。最初は満月の夜にだけ僅かに存在してい た影時間。それは現在までに、月齢が10台の間はおよそ一時間もの長さに伸びるまでに至ったのだ。
ところが最近では、影時間の勢いはかつてが幻であったかのように衰えていた。この計画のために資財を尽くして臨んでいた鴻悦は、失意の底に叩き込まれた。無限の時間を望む切なる願いの見通しには暗雲が垂れ込め、彼を半ば狂乱に陥れた。
『もっとシャドウを集めろ! あれだけが、わしに無限の時間を与えられるのだ! 』
先日、会長室での出来事だ。――底光りする眼で岳羽を睨みつけ、鴻悦は杖を傍らの彫像に振り下ろした。像は倒れ、『調和する二つは完全なる一つに優る』と刻まれた銘板が外れて床を転がった。
影時間を経験するには“薬品”の摂取が必要だった。象徴化を避け精神のシャドウ化を抑制する薬品だ。エルゴ研究所の医療チームがその精神抑制剤の開発に あたっていたが、試作品に充分な治験を繰り返す余裕はなかった。しかし、影時間にシャドウを目視する必要のために研究員達には、すでに投与されていた。鴻 悦は率先して第一号の被験者となっていたのだった。
桐条の総帥は、文字通り全てを賭けてしまったのだ。 老人に後戻りの術は残されていなかった。
『時を操る神器』計画の中心に据えられた岳羽は、現実の出来事とは思えない混乱の濁流に呑み込まれていく自分のありさまを、じくじたる思いで受け止める しかなかった。桐条の資力を自分の研究のために利用するつもりが、いつのまにか鴻悦の恐るべき欲望の片棒を担がされ、こうして後始末に奔走している。
それでも巨大な計画の影で、岳羽は本来の研究を秘密裡に進行させてきた。シャドウを捕獲・制圧するためと称し、影時間でも動作が可能な『精神を実装した兵器を造る』。――これが真の目的だ。
岳羽は、様々な波形が踊るベッドサイドモニターの一つを見つめた。そこには、音響や色といった五感からの本能的な反応、脳波へ擬似的な刺激を送ることで得た膨大な設問・シュミレーションに対して、この碧眼の重傷者が返した心理リターンが映し出されている。
シャドウ回収中に思いがけなく手に入れた、この理想的な“人格”。
――もちろん、兵器としての、だ。
総務部情報課の調査によると、患者は外国人登録や戸籍、政府の極秘事項である国民番号にもデータが無い、言わば”公的には存在しない無国籍人”だとい う。このおかげで、最も対処が困難である対外的な倫理問題が、こうも簡単にクリアできるとは。――岳羽は安堵しながらも、あまりに望みどおりの展開に、不 安すら感じるほどだった。
この人物は攻撃性に
「終脳データの吸い取りは、あと38時間で完了します 」
「ボディ換装の準備は出来ている。精神領域を
私は、先行してデータの選別に入る。 神経ケーブルの接続は、それが終了してからだ 」
「了解しました 」
先月の満月時に大発生したシャドウの捕獲は困難を極めた。テストに耐え得るよう最大級の黄昏の羽根
(...あの人格のバックアップは、そのまま使うには相応しくないということだ。
次のVII式特別制圧兵装...
戦闘に不必要な要素は、できるだけ排除しておくことが課題だな。)
岳羽は、もう癖になってしまった疲れた溜息をついた。シャドウを殖やす事にのみ虚ろな情熱を注ぐ桐条鴻悦に、結果として従っている自分... 腹心の部下になりえると踏んでいたかつての教え子はそんな彼を非難し、共に桐条を去るように懇願した。
彼女の手を取らなかったあの時、岳羽の心は決したのだった。
(僕は、この計画に責任があるからこそ行く末を見つめなくては...
外に居ては、何が起ころうと手出しが出来なくなってしまう。)
彼がモニターからベッドへと視線を走らせた時、患者の碧い眼を覆うまぶたがピクリと動いた。
「私の声が聴こえますか!? 」
枕元に立ち、屈み込んだ岳羽は、問いかけたあと仮面の口元に耳を近づけた。
「......ぁ、」
「あなたを何と呼べばいいだろう。名前はありますか? 」
「 ジス... 」
掠れた呟きを聞きとった岳羽は、その言葉に静かにうなずいた。
Shakespeare ”The Tempest” IV-1
“We are such stuff as dreams are made on,
and our little life is rounded with a sleep.”
我々は夢と同じもので出来ている。
儚い命は眠りより始まり、円を描いて眠りで終わる。
八は完全なる段階の数。
四は福音書の数。
七は封印と精霊の数。
瞑想は聖数が描かれた魔法陣の導きにより、透徹した叡智との交感を可能にする。
江戸川は、地下室の床に寝そべっていた。
死者の体位をとる彼の周りには香炉が置かれ、灰を火照らせながら紫煙を吹き上げていた。
瞑想は自我を深みに沈める。
そして純粋な意識を高次に繋ぐために、より優位へと浮上させていく。
彼は濁った思念に乱されぬよう呼吸を整え、築いた力場がクリアに澄むのを待ち続けた。
次第にメランコリアの雲が払われ、江戸川は威霊の存在に近づいてゆくのを感じた。
この合理的なシステムを経て、魔術師は
彼は催眠のうちに流れ込む声を受け止め、静謐なる交信を開始した。
「汝に問う。 我が先達の霊は何処いずこに在りや 」
「我は既に汝の側に在り。
...世界に、
かつてはあらゆる宗教が、各々の解釈で定義していた終末...
歴史のエントロピーにおいて多様化し、それぞれが個別に思い描いていたその在り方が、いまや“N.Y.Xの望む終末”へと意味が集束し、増大している 」
「ぬー、どうしたもんでしょうか~
今年に入ってから急激に奴らのビラが増えて、全体が結界に閉ざされてしまいました。
もはや負の波動が強すぎて、こうして
瞑想がやりにくいったらありゃしません...
...師匠、奴らをなんとかできませんかね? 」
「それは、おまえの役目でも私の役目でもない。
そして、いまはその時ではない。
我ら魔術師の第一義は、“法則を知ること”。
私はおまえの素質を見込んで、世界を律するアルカナの知識を授けた。
これからは自身で、魔道を探求しなければならない時だ。
だが、導師としてこれだけは伝えておこう。
やがて、九度の過越しの祭りが巡りきた時...
月の子らが集う学び舎に“彼”は来るであろう。
おまえはそこで、己の欲するものを見出せ... 」
「お師匠さまったらステキ。ご親切にありがとうございます 」
彼の眼に光が戻った。
遠くくぐもっていた音や周囲の無機物、そして重力が存在感を取り戻していく。
瞑想から醒めた魔術師は、そのままの姿勢で、ひっそりとつぶやいた。
「九年後ですか~...
いっちょ教員免状を取らねばなりませんな、これは 」
『イエスは私たちが簡潔に語ることを望まれた。
それ以上の言葉は“悪意”に尽くされる。
...魚を語るときには、魚とだけ言えばいい。
虚偽の文句を響かせて、その名を隠すには及ばないのだ。』
『
確かにね...
言い訳や誘惑、そして嘘が混じれば混じるほど...
...言葉は長くなっていく。
真実の言葉はいつも短いものだ。
僕が聖櫃の中で誕生を待つシャドウのきみたちに贈るのは、
聖書に記された神の言葉さ。
『耳ある者は神の霊が教会に告げる事を聞くがよい。
勝利を得るものには、神の楽園にある命の木の実を与えよう。』
ふふ、フフフ...
人間が今のような心を持つ存在である限り、
神に許される時など来はしない...
神が人間に寿命を定めたのは、
肉が魂を持ち続けるのに相応しくないからだ。
汚れた肉に過ぎない人間が永久に神の霊を授かるためには、
人自身の“意志”によって滅びを招き肉の器を棄てなくてはならない。
清い魂を持つ者だけが存在を続かせてゆく、新たな世界――
楽園...
だから僕は...
人の意志であるきみたちが、神に背かないように祈っている。
全ては、きみたちの望みを叶えるためだ。
僕と共に、
彼が軍勢を率いてもたらす“旧き者共の滅亡”を願ってくれ。
...これが神の意に沿う、唯一の正しい選択だ。
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