Persona3小説 宇宙の暇潰し 忍者ブログ

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宇宙の暇潰し

「僕の名前は……ファルロス」
「あ、そう」
もったいつけた割にそれは、俺にとってなんの意味も持たない単語だった。でも、名乗ったら友達になってあげる約束だったから、握手のつもりで潔く手をさしだしたのだ。するとその時、タイミングを見計らったように、頭上で聞き覚えのあるシンフォニーがドンドコドーンと鳴り響いた。
(え、まじで?)
これが出るのは人間相手の時だけかと思っていたのに。ファンタジックかつ煌びやかな音と光のページェント――を賑々しく引き連れてコミュニティのカードが現れる。千葉県民にとってのディ○ニーランド程度には、お馴染みの演出だ。
慣れない頃は、これがどうにも恥ずかしくて仕方のないイベントだった。周囲の人間にこのドンチャン騒ぎが見えていないという保証は無かったし。誰かとちょっと親しくなると頭でファンファーレが鳴っちゃう男。なんて書くとまるで、俺がとっても微笑ましいヒトみたいにみえてしまう。ランクアップの度につい赤くなって両手で顔を覆ってしまい、女子からも男子からもドン引きされた過ぎ去りし青春の日々よ――もちろん誰かに「見えてますよ」と言われようものなら、その場ですぐさま切腹するつもりだった。それくらい、ペルソナ使いとは命がけの覚悟を要する特殊能力者なのだ。
くだらない冗談が長くなった。ペルソナ道の師イゴールいわく、『楽して強化の第一歩は、コミュニティより始まるのです』。大いにラクしたい俺は、ほくそ笑みながらカードがひっくり返るのを見届けて、それから、踏まれたカエルみたいな声を出した。「がっ」……イコツ?
まさにその時、やっと気づいた。いつかラウンジで契約を交わして以来、自分がこいつに何を感じとっていたのかを…!
「……よろしくね」
「……よろ、しく」
二人のあいだに結ばれたもの、それはこの上なく不気味な架け橋だった。無理をすれば
愛嬌のあるオーパーツとかローマの名所に見えないこともない。しかし残念なことに、ソレが二十二枚のうちでもっとも不吉なアルカナなのは、あのイゴールの鼻を見るより明らかだった。
相手が人間だったなら、いくら死神のカードでも死神そのものである可能性は低い。だが、…相手が人間では無かったとしたら?
(どうなんだこれは。どう解釈すれば……?)
視線が泳いで二の句が継げない俺はともかく、視界の隅では、なぜかファルロスも絶句している。

後になってから、ちょくちょく俺はこの時のことを思い出した。思い切って訊いていれば、俺たちの運命は変わっていたのだろうか……と。

「キミ、死神に見えるんだけど。
えと、俺のことはどう見えてるのかな?」

たったこれだけのことを率直に尋ねられなかったのは、なぜだろう?

そうだ、ファルロスはどうも記憶を失くしてしまったらしく、再三、自分が何者かわからないと語っていたんだ。だから俺は(そのことが吉か凶かは想像もつかないが)、せっかく自分の正体を忘れている彼に、あえて思い出させる必要はまったく無い、と考えたのだ。
ファルロスに話を合わせて迎合する以上の言動を控えていたのは、そういう一身上の都合に過ぎなかった。でも傍からどうみえようと、たしかにファルロスは俺にとって唯一の友人と呼べる間柄だったと思う。なぜって「友達になろう」などと宣言してほんとに友達になっちゃうなんて、生まれて初めての経験だったわけだし。(…ないよな? フツー。)

ここでひとつ昔話をしたい。小学生の頃だ。
抜き打ちで配られた適合力テストのプリントの中に「友達の名前を書きなさい」という一文を目にして俺はパニックに陥ったことがある。友達だと思ってるのが自分だけ、なのはまだいい。けれどそれが万がいち白日の下に晒されて、友達だと思い込んでた相手や先生にも知られてしまったらどうする? 気の弱い俺みたいな生徒なら、自らガソリン浴びて火をつけたくなってしまうだろう。気の強い生徒なら、裏切った相手や教師のほうに浴びせるかもしれない。というか俺が知らずに誰かを裏切る可能性だってあった。なんて事だ、どっちに転んでも焼死が待っている怖ろしい罠じゃないか。教師がどういうつもりでそんな危険を冒してまで質問をつきつけてきたのか、その真意がいまでも全く理解できていない。世の中には絶対に知らない方が良いこともあるのだ。それをしみじみ実感させてくれた、アレは幼い日の一大転機だった。もちろん俺は白紙で提出した。まだ、くたばりたくなかったので、…

「またエア自伝つづってるの?」
「しょうがないだろ、退屈なのにネットもマンガもないんだから」
「フフ、思い出か……。ねえ、僕たちが初めて友達になった時のこと、覚えてるかい?」
「……まあ、なんとなく」
「僕ははっきり覚えてる! キミとのコミュにすごく驚いてたんだよ。
もしMAXになれたらどうなるのかなーってドキドキしてたら、人間が解禁になっちゃうんだもの!
あれは楽しかったなあ。 ……きみは?」
「ムドの見本市みたいなペルソナが解禁になったな。とかくスキル調整に苦労した気がする」
「人間って、若いうちの苦労は買ってでもするんだっけ。良かったね、タダで」
「若いうちに死んじゃったけどね」
「あはは、……じゃ僕、またしばらく眠るよ; おやすみなさい」

「…なあ、ファルロスには俺がなんのコミュにみえてた?」
「え、たぶんキミと同じだと思うよ…? げんに僕も死んでるようなもんだし」
「やっぱりそうか」


END

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