Persona3小説 悪の華 ★◆ 忍者ブログ

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悪の華 ★◆


永い間、この時を待っていた...


君は僕の手に委ねられた者として
与えられた時を往く。


...怖がらなくていい。
時は全てに終わりを運んでくる。

だがそれまでは...

たとえ耳と眼を塞いだとしても、
その身に起こることを、君が遮る事はできない。


じゃ...始めるよ。―――







意識が徐々にはっきりしてくる。

...傍らに、人の気配がする。


「う...ん、 」



「...気がついたかい 」

心臓が鈍いガタつき音を立て、それが瞬時に眼を開かせた。


「誰? 」

いまの聞き慣れない低い声が、どこからしたのか分からず、急いで辺りを見回した。
まだ眼が暗闇に慣れてない。でも、ここが見知らぬ部屋だというのは分かった。
変なにおいがする。薬のような。まるで...病院のような。

俺は寝たことの無い感触のベッドの中で、仰向けになっていた。毛布の上に出ている左腕に違和感があった。少し痺れていたそこには、点滴の針が刺さっていて、輸液のチューブが上に伸びていた。どうやら本当に...病室らしい。

藻の生えた湖のような色の光が、左にあるカーテンのかかった窓から室内に射し込んでいる。(あの時間だ... ) そう思ったとたん、寒気がした。

俺と彼女達以外、動けるやつがいるのか。
...ひょっとして、寮の誰か?

「いまの...理事長、さん? 」



「...違うよ。 ...ここ、君の足元だ 」

沈黙のあと再び聴こえた声は、底知れない響きの、柔らかい深みのある若い男のものだった。体を起こそうと片肘をつくと、たったそれだけなのに視界が歪むほどの目眩が襲った。頭がとてつもなく重い。うめきながら顔を抑え、
目蓋(まぶた)の裏の螺旋や記号が消えてから、ようやくふたたび眼を開けた。さっきよりもかなり、部屋を明るく感じる。

白いカーテンに、白いベッド...壁も白い、何から何まで白い。

(夜中? 病院? 足元? ) 知覚したことの結びつきが全く理解できないまま、俺は顎を引いて自分のつま先を見た。

そこには―――


真っ黒な髪を後ろに撫で付け、黒い微かに光沢のある長袖のシャツを着た男...俺と同じくらいの若い奴がこちらに横顔を向けていた。疲れたように肩を落とした姿を月光に照り映えさせ、身じろぎもせず座っている。

「誰、あんた...? 」

記憶を探っても見当たらない、知らない人だ。
どうして俺のそばに? というか、なんで俺は病院なんかに...


「君と僕とは一つだというのに...

...そうか、もしかして、僕の呼び名が欲しいのかな? 」

短い溜息をついたあと訊ねながら、暗さにも白く強調された顔がこちらを向いた。そのじっと見つめてきた両眼の異常さに仰天した。喉の奥で鋭い呼吸音が鳴った。

蒼く光る、あの少年のような...でも、もっと暗さに沈んだ、人間とは思えない色の双眸。認識した瞬間、身震いがして肩が動いたほど冷酷な輝きだ。その両目を笑うように細めて、しかし声は抑揚の無いまま、そいつは薄く口を開いた。


「僕のことは“The Death”と呼ぶといい。
観念に過ぎないが、仮初めの役目を果たすには、それで充分だ 」

(なに、それ。 ...観念?) 混乱して何も言えなくなり、ただ見つめあうしかない俺に、そいつは黙って立ち上がると、左横の枕元に近づいてきた。チャラチャラという金属音がする。腰に、銀色に光るキーチェーンのような鎖が下がって揺れていた。背は俺より高そうな、すらっとした上下とも黒服の姿だった。
起きたら突然そばにこんな奴が居たら、誰だってビビると思う。


「“デス”だ。 ...言ってごらん 」

上からかぶさる様に覗き込まれた。伏目に見下ろす、端正な...といっていい顔。向かって右の眼の縁に、黒い小さな点が...ほくろがある。人間らしいのはそこだけで、あとは人形のように昏く冷たい表情だ。本能的に、恐怖を覚える。なぜか、喰われそうな... 黒豹に狙われた小動物にでもなった気がして身の底から怯えが走った。

「デ、デス... 」

「...いい子だね 」

沈黙が怖ろしくなり俺は慌てて口を開けた。
何か話していないと怖い。我慢できない。


「お俺、何して... ここは? 」

「...病院だ。

今日、君は無事に、仮面の魔性を得ることが出来たが...
僕の発現の負荷に耐え切れず、精神が暴走し、正気と狂気の狭間に墜ちた。

そして... 」

(暴走? 狂気? ) 言われた事に頭がついていかず、呆然とした。“デス”と名乗った男は言葉を途切らせた。そして、スッと俺の顔に右手を寄せ、おとがいに触れた。反射的にビクついて首を竦めた。それにも構わず、震え上がっている頬にひんやりした指をかけ、少し長いらしい爪の親指を唇の間に挿れてくる。怯えに動悸が速まり、鎮めようと深い呼吸になっていた俺は、ぽかんと小さく開けたままになっていた口を慌てて閉じようとした。しかし、硬い杭のように這入り込んだ指は更に奥に進み、逃げようとする舌を、愉しむかのように追いかけて下顎に縫いとめた。

「んっ...ふ、な、なにひゅるっ 」

「見て触れることのできる君が...こうして掌中に在る...
運命の悪戯に、感謝しなくてはいけないな。

...永い間、僕は、この時を待っていた 」


俺は彼の滑るような感触のシャツの袖を握って、腕を除けようとしていた。子供が大人に挑むかのようにびくともしない。児戯にも等しい自分にではなく、相手の力の巌のような強さにこそ恐れがこみあげて、この場から逃げたくて逃げ出したくてたまらなくなった。

デスの左手がベッドの何枚か重ねられた毛布をまとめて掴み、覆われていた体から引き剥がしていく。そうこうしているうちに、舌へ突き刺さる指のせいで唾液が溢れそうになっていた。体を覆い守ってくれる毛布がなくなる不安に慌てて、デスを阻止しようと手を出した。拍子に、溜まっていた水分がノドに流れ込み、むせて首をよじった。咳に力を込めたせいで眼が熱くなり涙がわき、視界がぼやける。

「うっ ゴホッ... ッ...  」

「大きくなった...
初めて見たときには... あんなに小さな幼な子だったのに 」


露出した俺を眺めたデスが言った、妙な言葉の意味を考える余裕もない。腰の下まで毛布をめくられた時、激しい焦燥にかられ、口に穿たれた指に歯を立てた。何をするつもりなのかは分からないが、それは絶対に、俺にとってよくないことに違いない。さっきから不吉な予感ばかりが増大している。

骨も砕けよと思いっきり噛んだのに、デスは全く痛みを感じないかのように、平然と親指を鉤のように曲げ、俺の顎を掴み直した。手がシーツの上の腰に伸び、薄いパジャマのような病衣のマジックテープをはがした。俺は惑乱して眼を剥き、デスが開こうとする衿を必死に掻き合せた。チューブに引っ張られ点滴架台が揺れ、そこに立つ存在を掠めて倒れた。腕から針が抜けそうになりテーピングに皮膚が引き攣れ、刺すような痛みが走った。全ての事態に表情を失い青ざめた俺が、瞬きもできず凝視している、ほの白い顔に...かすかな笑みが浮かんだ。

「...ひゃめてッ らに!? 」

「最初に言っておこう。

このように柔らかな
(しとね)を与えるのは、初夜の今宵だけだ。
暴れることも泣き叫ぶことも許そう。むしろ、君の声をたくさん聴かせて欲しい 」

畏怖を呼ぶ響きと意味に戦慄し、渾身の力を込めて握り締めた衿は、デスの片手の開帳によって、手の中で繊維の千切れる悲鳴を立てて裂けた。顎を掴み続けている手は、俺の頭を枕に固定し、沈み込むほど強く押し付けている。裸になった胸に冷たさが襲い、痛点を感じた。直ぐに、それは彼の爪先に乳首を挟まれ、きつく抓られたのだと分かった。

「痛ッ...ふぁっ! 」

苦しくて、怖ろしくて、毛布を蹴飛ばして足を曲げ、ベッドを蹴ってなんとか下半身だけでも右側に逃れようとした。突如左のこめかみに鋭い衝撃が破裂し頭が揺れ、直後に眼に熱が燃え上がった。驚愕と恐怖で声も出なかった。殴られたんだと気付いて、ブれた涙目でデスを見上げた。

「片手が塞がるのは不便だな...

...仕方が無い。
今夜の予定ではなかったが、ある程度の自由は奪うことにしようか 」

咥内から指が外れ、唾液が滴った。とっさに拭おうと手の甲を当てたとき、両肩に重い痛みが走った。デスに指が食い込むほど強く掴まれている。ベッドが揺れ、ギクリとして視線を落とすと、彼は既に乗り上げ俺を跨ごうとしていた。乾いた薔薇と沼地の泥濘のような不思議な野生的な香りが漂った。血流が阻害され、肘が痺れてくる。蒼い眼に射すくめられ、制御できない心臓が壊れそうに鳴り出して、俺は叫んだ。

「...痛いッ!止めてっ ...何だかしんないけど、やめてくれよッ!! 」

「彰の望むことなら、この身がどうなろうと、
(かしず)いて叶えてやりたい。

だが... 狂おしいほど願い、待ち焦がれていた奇跡だ。
この本懐だけには、心を背けることはできない 」

はにかんだ様な、飢えたような光を湛えて、デスが上目遣いで俺を見た。
何で俺の名前知っているんだ?...という疑問はすぐに消えた。ここが病室なら、幾らでも知る方法はある。引っかかったもう一つの問いを、恐る恐る口にしてみた。蚊の鳴く様な声だ。


「ほ、本懐って、なに?... 」


「君を
(めと)り、欲望のままに契りたい。

こうして魂を失っている君が、僕の腕に抱かれている間だけで良いから 」

今はもう露骨に熱情を込めた、低い声音の古めかしい物言いに、混乱した俺が何を言う暇もなく、着衣ごしに肌を破るほどの勢いで両肩に爪が突き刺さった。次の瞬間、身の毛もよだつゴリゴリッという破壊音が骨に響いた。腕をもがれた、と脳裏に言葉が疾った。同時にノドから悲鳴が迸った。

「...ぎゃああああああああああッ!!! 」

「心配はいらない。 終わればまた嵌めてあげる 」

痛みのせいだけではない、ショックで全身が一息で汗みずくになった。がたがたと背骨からくる震えが止まらない。肩が痺れて重い。まるで錨でもぶらさげているように。自分の腕の存在を感じない。焦って視線を走らせた両腕はついている。でも指も肘もぜんぜん動かない。どうして、な、なんでだよ!? 痛い!!...

「うぁ... あ、あんた、なんでこんなぁ... 」

「彰は僕の声を知らないのか... 予想もしていなかった。
十年も懸想し永いあいだ呼びかけていた、僕の立場はどうなる。

あの、君の心の殻... もっと早くに壊してしまうべきだったな 」

腕を外された苦悶にのたうつ俺の衿が攫まれ、乱暴に開かれた。下腹に腰を下ろされ、両の脇腹を膝で挟まれ、動かせない腕を強引にベッドの左右にある柵状の手すりに通された。涙でぼやける視界に、蒼い二つの光だけが鋭く映り、刺すように脳髄にまで届く。この男が、俺に何をしようとしているのか、その意志が―――

「いやだッ!助けて、誰かッ!! 殺される、いやだッ!! 」

「殺しはしない。僕が、可愛くてならない君を殺すものか。

だが、そうだな...同じことかもしれないね。
彰は、勘がいいな... 褒めてあげよう 」

細く開いた唇から歯を覗かせて笑い、両手で俺の胸や首を緩慢に...確かめるように、撫ではじめた。

「...あ、あんた誰なんだよ、っく...ぁッ...んな事、されるの、
あぅ、...くすぐッた...もういや、やっ...は、はなれろったらッ!! 」

冷や汗を塗り込められ展ばされるような動きがくすぐったくて堪らない。咽喉に指が絡みつく。押しのけることのできない腕が悔しくてもどかしくて涙が出た。あまりに激しい動悸が、他人の手にぴたりと密接し触られている部分から、俺自身に跳ね返ってくる。見も知らない人間に、なぜこんな事をされているのか全然理解できない。俺を昔から知っているような口をきいた。でも俺は知らない。こんな奴は知らない。全く知らない他人に訳の分からない事をされて、この先どうなるのか死ぬほど怖ろしい。助けていつもの声、俺を早くこの場から連れ去ってくれ! 逃げたいんだから、はやくしろ!...

「子供の頃のような声になってるな。 ...僕が、怖いのか? 」

「こ、怖いに決まって...あッ もう、もうさ、...さわんないでっ!ひっ...ッ! 」

「あの無垢なる魂が、外ではこの反応なのか......まあいい。
なにやら幼な妻でも貰う心地だが、君であることに、変わりは無いからね 」

俺の精一杯の拒絶に何一つ耳を傾けず、男は、バタつかせていた俺の片方の足を後ろ手に開いた。もう一方を膝を上から押して無理やり伸ばさせ、体をずらして肢の間に割り込んできた。

「な、なにすんの、 」 涙声は舌足らずなまま絞り出された。

「フ... 穢れの無い君の
(とばり)を開けて僕の毒を注ぎ込みたいと...
堕落させてみたいと、思うようになってしまったんだよ 」

震え上がりっぱなしの俺の問いは、よく分からないイヤらしい語感の混じる答えを返された。面食らった俺の腰の両側にきた手がウエストに指を入れて、病衣のズボンを下着ごと脱がそうとする。とっさに抗おうと腰を捩ったら、却ってそれの手助けをする破目になった。背中に奈落が黒い口を開け、怯えが絶対的な恐怖へ変貌していく。何の呵責も無く俺の両腕を壊した人物が、これからしようとしている事に、心臓が壊れそうなほどの動悸でいっぱいになり、哀願のためにあげた声が上擦った。

「...うそ、 こんなの、うそでしょ... ぼく、イヤだ... やめて.. 」

「...懐かしいな。 小さな頃、自分をそう呼んでいたね。
懐かしいだけじゃない...その声その響きは、僕にとって背徳への誘惑にも等しい 」

何もできない無力な子供に還らされ、眼は涙を零し続ける。デスはまるで母親がやるように俺のズボンとパンツを脱がせた。屈辱的であるはずのそれは、ただただ怖ろしく、嗚咽を抑えたくて内側に丸めた唇が震え、意志に反して開いてしまう。

「うっ...ひっく ...ふぅぅッ ...ひっく...っく 」

「よくそうやって、アキラは寝床で淋しさを噛み殺していた...

いつからだろう。
僕が哀しみに暮れる君に烈しく溺れ、繭を濡らす涙にまで肉欲を抱くようになって...
死神として破滅してしまったのは... 」

嘆きの滲む独り言がした。俺はやっぱりまだ縺れ混乱したまま、生きた心地も無くすすり泣きを続けるより他なかった。自分で拭うこともできない涙塗れの俺の顔を、無残な姿を、デスは咽喉を鳴らしてしばらく見つめていた。

...やがて、片手をベッドにつき、自分の黒いボトムの前をはずして開いた。彼が背筋を伸ばしたとき、それらを呆然と追っていた俺の眼に、吃驚するほど夜目にも猛々しく天を向いた性器が飛び込んだ。驚愕と鮮烈な恐怖が全身を駆け巡った。唇が熱くなり口の中が乾いた。足の先が冷たくなり、不安が堪えがたく咽喉をしめつけた。

...アレで、なにを... ...どうするの? まさか!?...

「君の足は責め苦を受ける為に生えてるようだね。

魔宴
(サバト)
に供される悲劇の少年みたいに 」

震える膝裏を掴まれ折り曲げられた足の内側に、屈みこんだデスが顔を寄せて、冷たい唇を押し付けた。レイプを予想して舌を縛られ、絶句していた俺の首の後ろが、ゾッとしてそそけだった。
舌が...長めの舌が伸びて、アイスでも舐めるかのように肌をこする、上から下へと皮膚の上を、ぬらぬらと這っていく。濡れた跡が外気に触れひやりと染みとおる。悪寒が湧いて足の間から逆立つように放射した。 ...そうだ、俺のだって視られている。でもそこはデスとは反対に縮み上がって、男の視線から逃れたい、この場から無くなってしまいたいと言わんばかりのありさまだった。

「痛...タッ 」

足の付け根の骨に歯を立てられた。際どいところを抉るように穴でもあけそうに尖った舌が戯れる。デスの頬や髪に性器が触れ、痒いようなちくちくする変な感じが襲って、勝手に腰がびくんと浮き上がった。そのつもりじゃないのにデスに自分を押し付けたことを、笑われたような気配がして...頬が熱くなった。

右の足首を掴まれた時、近くにある男の顔を蹴って逃げ出したい衝動にかられた。でもこのままでは、自分でドアも開けられないと気づいた絶望に、心に降りた暗黒の幕が視界までも薄暗くした。足の先が妙に生々しい感触に包まれた。男につま先を唇に挟まれ、噛まれ、舐められている。そんなところを舐めるなんて、信じられない。指の間で熱く蠢いている舌...否応無く感じさせられている自分が、恥ずかしくて悲しくてたまらない 。

俺はとうとう嬲られている事実から眼をそらした。ただ天井に向けて放心した。この男がなぜ自分に変な事をしているのか、今から何をするつもりなのかも、もう直視できない。 ...したくない。

「もっと、声を聴かせてくれ。お願いだ 」

肌に絡みつくようにねだるデスに対し、粉砕されかかっていた反抗心が甦ってきた。引きつつある涙の尾を呑み込み、唇を引き結んだ。嗚咽が止んで静まり返った部屋に、痕を引くような水音と呼吸の綾だけが淫らがましく織り成されてゆく。時々つま先からカラダの中心に痺れが伝う。とても遠いのに、間を隔てる脚が存在しないかのように、それはダイレクトに俺の眠れる何かに潜り込むように愛撫した。不意に沈黙を退け、デスが舐めていた右足の小指から舌を引っ込めて囁いた。

「...こんなに瑞々しい果実が、いつかは熟れて腐りきっていく...

果肉に包まれた種に眠る“死”の、約束された誕生に、誰一人逆らうことはできない。
人間が愛もなく淫欲に身を任せ...抱き抱かれる相手もまた、血肉と皮膚で飾られた、豪奢な骸骨でしかないんだ 」

再びデスに求められ熱く吸われたつま先がズキリと揺れた。今度は鮮やかに伝い昇った閃きが芯に眠る獣欲を刺した。反射的にノドが反り、汗の滲む背が生暖かいシーツから離れ冷ややかな空間をつくりだす。「ッ......ハァッ、」 誰にも聞かせた事の無いはずの喘ぎが胸を衝いて吐き出された。その瞬間に点された焔が足の間で燃えはじめた。
「ふぅ、ぅ......んっ 」
自分の体に起こった変化を頭が拒否し心が乱れた。もし今、独りきりだったなら、そしてこの両腕が自由だったなら、恐らく手慰みをして終わらせただろう。現実には見も知らぬ病室で見知らぬ男にもてあそばれ、自分では考えもつかない場所を舐められ火をつけられ、いつ終わらせてくれるのかも定かではない。
「......っぅ 」
なんとか再び喘ぎを殺して黙り込んだ俺は、体温の近くなった繊細な仕草のデスの手が、左の腰骨にかかったのを感じた。俺がむなしく身悶えをし声を上げていた間、彼はじっと耳を澄ませる様に静かに舌技で奉仕し続けていた。芳香と共に、闇にとけこむような暗い情熱を甘く秘めた声が汗に濡れる裸の胸に降りてきた。

「...僕は、君の体を滑らかな宝石のように磨き上げたい。
そして其処に、鮮血の緋文字で刻むように教えたい...

たとえ人々が忘れていても、“死”こそは唯一の
優しい友人で、甘い恋人で、...絶対的な暴君だということを 」

愛でる響きのその言葉は、裏腹に不吉で、冥い葬儀の前兆のような乾きを孕んでいた。皮膚の薄い箇所に飛び出している骨を指でたどると、デスはそれを掴み引寄せながら俺の足を体を折るように開いた。香りが一層強く流れ、朦朧となった感覚に、またしても怖れが舞い戻ってきた。

「...ぁ、厭だっ放せよ! くそっ畜生ォッ!! 」死に物狂いで振り上げた足が掴まれ、折れそうなほどの乱暴さで開かれた。「うぁっやめてッ! 」デスの手が襲い首から枕が引き抜かれ、浮かされた腰の下にあてがわれた。直後、臀に挟むように押し付けられた熱い塊りに心臓が逸りだした。恥かしさと恐怖とで眼も口も食いしばり足掻いていた俺は、その不可解な感触に思わず目蓋を開いてデスを見た。男は、その熱に浮かされた怪物のような表情全部で俺を脅やかした。

「..これが堕ちた死神から君に捧げる、真心だ。

なんの潤滑の隔ても無く、ありのままに君を感じ、僕を感じさせたい。 ...いいね 」

語尾が消えないうちに、潰すように曲げられデスに開脚させられた中心に、硬い弾力がこすりつけられた。ソコに入るなんて絶対にありえない大きさのものが、怖ろしい力で俺をぐいぐいと突きだした。「い、厭だっ!いやだ、いやあああっ痛いい!! 」
痛みとその先に待ち受ける奈落への恐怖に、必死に拒んで締めた。ぶるぶると腰がわななく。そこに無理やり馴染ませながら、剣の柄みたいな太さの尖った先が、重力の助けを借り小刻みにメリ込んでくる。
「うあ、うああああ!!やめてえ!裂け、ちゃ、あああ!! 」
少しでも力を弛めれば”それ”は身体を真っ二つに裂いてしまう絶対に。眼から炎が上がり視界が赤く染まった。絶叫するも虚しく、鋭い槍で串刺される恐怖はついに接点で爆発した。渾身の全てで拒んでいた場所から肉を突き破る音が響いた。限界まで緊張していた筋が耐えきれず断ち切られ、その衝撃に虚脱した俺の身体は、なす術もなくデスの破戒を受け入れ始めた。
「ぎい痛いいっイタイッ!!死んじゃ、やめてえッ抜いて!ぬいてッ!! 」
熱い激流が溢れ出して背中へ滴り落ちる。涙が汗が決壊して噴き出した。一体どうなってるのか振り返る余裕すら与えられず、傷口を拡げながら怪物の肉塊が潜り込んでくる。
「こわいよッ! イタイこわいやめてっこわい、ああああッ!! 」
体の中を兇器が通り抜ける非情な感触に叫び、痛みを逃がそうと喘いだ咽喉は枯れ、激しく咳き込んだ。その振動が躯の奥まで侵入を果たそうとするデスを絞めつけた。刺激に益々奮い立ち膨れ上がる存在が、残酷さを増して俺に突きつけられた。
「ぐ...ゲホッ ッ...あ、やぁ..も、もういや、あ、」

「...わかるか、君の熱い深紅の花冠に身を埋める、僕の悦びが!..
劫火のように恋い焦がれた、欲情の墓場だ、ここは... 離すものか... 」

俺が泣き声をあげればあげるほど、デスは狂った笑い声を上げ激しく腰を撃ち付けた。天井が歪む、身体中が歪んで内側から食い破られてる。痛い、やめて、痛い、痛い、許して。訴えても涙を流しても、中で暴れている巨大な蟲は、俺を割って孵ろうとあらん限りの力でもがき続けた。引き攣り、擦れ、引きずり出され、激痛に痺れ果てた体奥めがけ胃にめり込むほど突き刺され...カラダに流れるあらゆる体液が衝撃で押し出されていった。頬に顎に奮えを押し殺す息づかいが触れ、デスの舌が溢れる涙や唾液の上を舐めながら耳へと這った。

「...幾ら拒絶しようと、これが
真実(ほんとう)の君だ。
ずっと僕を抱いていた。僕に犯されていた。こうして融けあい僕の寄生を許してきた。
君が、知らなかっただけだ... 」

何か囁かれている。あたまに射した大きな影が邪魔をしてもう何もわからない、なにも... 柵に挟まれた手首が手すりにぶつかる音だけが、ガタガタと鼓膜を衝いている。暗闇に堕ち、楔打つデスとの境すら分からなくなった頃、内臓の奥に重い珠を放たれ、ドクドクと注がれていくのを感じた。抜かれもせず重ねて挑まれ、弄ぶようにぐちゃぐちゃに中身をかき回された。男を呑み込むたび精液混じりの粘血が噴きだし、その飛沫が背に温かく垂れ落ちていく。苛烈な痛みに悲鳴をあげ続けた咽喉は既にひび割れ、突き上げられて腹を蹂躙されるたび掠れたうめきだけが吐きだされていた。

「ッ... ッあ... はッ... 」

血塗れた俺の隙間に、デスがもう何度目かも分からない欲望を吐き出し終えた。やっと動きをとめられた身体は、骨も肉も神経もバラバラに切断されて空虚だった。首の骨が逝きそうになるくらい揺さぶられ続けたせいで、肩甲骨は擦り切れ熱傷を負っているようだった。息を吸う力も失せ、死体になった...魂など無い死人の気分になっていた。俺はこの黒衣の男を包みしごきあげるだけの道具に堕とされていた。ただ苦痛に涙し、声を上げるだけの性具に。血と薔薇の匂いが充満するさなか、敗北の濃い闇に弛緩した全身が覆いつくされていた。

「こうなって...君の心はどのくらい闇に近づいたかな... 還るのが楽しみだ 」

小さく舌を出して唇の端を舐め、デスは長く細い溜息を吐いた。そして、交わったまま、うな垂れた俺の性器をつまんだ。痙攣する目蓋の奥から、ぼんやりと触られている場所に眼を遣った。
指輪にしては少し大きな銀色に輝くリングを手に、彼は再び静かに情炎を宿らせた瞳で俺を見下ろした。

「...今から、君が僕と婚姻を済ませた証を贈ろう。これは終生の誓いだ 」

「......っ、」

微笑みながら告げた男の白い指が、俺の先端に窮屈な環をくぐらせ、限界まで吊り上げて伸ばしながら根元まで嵌めていく。初めてそこに強い刺激を与えられ、もう動かないと思っていた身体がびくんと撥ねた。

「ウッ... 」

「フフ。 いま、君の返してくれた肉の環の接吻をもって、交換としようか。

じゃ... また明日逢える時まで、ゆっくりおやすみ 」


デスが体を重ねて、唇で俺の額に触れた。

罪人の印を刻むように強く押し付けた後、その気配は―――消えた。


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